射影行列の定義と7つの大切な性質
最終更新 2018年 4月30日
定義
正方行列 $P$ が
を満たすとき、
$P$ を実ベクトル空間上の
射影行列という。
例
次の行列
は射影行列である。
実際に計算してみると、
が成り立つ。
正規直交基底による表現
任意のベクトル $\mathbf{x}$ に射影行列 $P$ を作用した $P \mathbf{x}$ の全体は、部分空間を成す。
この部分空間の正規直交基底を $\{ \mathbf{e}_{1}, \mathbf{e}_{2}, \cdots, \mathbf{e}_{m} \}$ とするとき、
$P$ は、
と表される。
$1-P$ も射影行列
$P$ が射影行列のとき、
$1-P$ も射影行列である。
また、任意のベクトル $\mathbf{x}$ に $P$ を掛けたものと、
$1-P$ を掛けたものは
直交する。
すなわち、
が成り立つ。
証明
$1-P$ も射影行列
射影行列の
定義から、
が成り立つ。
したがって、
$1-P$ もまた射影行列である。
直交性
任意のベクトル $\mathbf{x}$ に対して、
射影行列の定義と
内積と転置行列の関係によって、
が成り立つ。
したがって、
$P\mathbf{x}$ と $(1-P)\mathbf{x}$ は直交する。
射影行列の固有値
射影行列の固有値 $\lambda$ は、
である。
証明
$P$ の固有値を $\lambda$、
$\mathbf{x}_{\lambda}$ を固有値 $\lambda$ を持つ固有ベクトルとする。
このとき、
が成り立つ。
これより、
$P\mathbf{x}_{\lambda}$ 同士の内積は、
と表される。
一方、
射影行列の定義と
内積と転置行列の関係をにより、
とも表せる。
これらから、
であるので、
が成り立つ。
ここで $\mathbf{x}_{\lambda}\neq 0$ (
$
\left\| \mathbf{x}_{\lambda} \right\|^2 \neq 0
$
)
を用いた。
これを整理すると、
であるので、
である。
半正定値行列
射影行列 $P$ は、
半正定値行列である。すなわち、
が成り立つ。
証明
射影行列 $P$ と
実ベクトル空間の任意のベクトル $\mathbf{x}$ を用いた内積
$(\mathbf{x}, \hspace{1mm}P\mathbf{x})$ には、
定義と
内積と転置行列の関係によって
ところで、
任意のベクトル $\mathbf{x}$ に対して、
を満たす行列 $M$ を
半正定値行列であるという。
したがって、
$(3)$ は、
$P$ が半正定値行列であることを表している。
積が $0$ と部分空間の直交性
部分空間 $V_{1}$ 上への射影行列 $P_{1}$ と、
部分空間 $V_{2}$ 上への射影行列 $P_{2}$ の積が $0$ であるならば、
部分空間 $V_{1}$ と $V_{2}$ は直交する。
すなわち、
である。
また、
その逆も成立する。
証明
射影行列 $P_{1}$ の作用するベクトル空間を $V$ とし、
$V$ の全ての元に $P_{1}$ を作用して得られる集合を $V_{1}$ とする。
すなわち、
とする。
このとき、
$V_{1}$ は部分空間を構成する
(証明は
射影行列の定義と表現を参考)。
また、
$P_{1}$ を部分空間 $V_{1}$ の上の射影行列であるという。
この定義から、
部分空間 $V_{1}$ の任意のベクトル $\mathbf{x}_{1}$ には、
となる $V$ のベクトル $\mathbf{x}$ が存在するが、
射影行列の定義から
が成り立つ。
すなわち、
$V_{1}$ のベクトルに $V_{1}$ の上の射影行列を掛けても、
同じベクトルになるだけである。
同じように、
$P_{2}$ を部分空間 $V_{2}$ の上への射影行列とすると、
任意のベクトル $\mathbf{x}_{2} \in V_{2}$ に対して、
が成り立つ。
したがって、
任意のベクトル $\mathbf{x}_{1} \in V_{1}$ と任意のベクトル $\mathbf{x}_{2} \in V_{2}$ との内積は、
と表せる。ここで二行目の等号では
内積と転置行列の関係を用いた。
従って、任意の
$\mathbf{x}_{1} \in V_{1}$ と $\mathbf{x}_{2} \in V_{2}$ に対して
が成り立つ。
したがって、
である。
ここで、
部分空間の任意のベクトル同士が直交するときに、
部分空間が直交するといい、
$V_{1} \perp V_{2}$
のように表すことを用いた。
必要十分
$P_{1}$ と $P_{2}$ をそれぞれ $V$ の部分空間 $V_{1}$ と $V_{2}$ の上への射影行列とする。
このとき、
任意の $\mathbf{x}, \mathbf{y} \in V$ に対して、
が成り立つ。
内積と転置行列の関係と
射影行列の定義から
が成り立つが、
右辺は $V_{1}$ のベクトルと $V_{2}$ のベクトル同士の内積であるので、
これらが直交する部分空間であるならば、
すなわち、
であるならば、
が成り立つ。
任意のベクトル $\mathbf{x}, \mathbf{y}$ に対して、
この関係が成立するので、
である
(「
内積により行列が等しいことを表す」を参考)。
交換可能な積
部分空間 $V_{1}$ 上への射影行列 $P_{1}$ と、
部分空間 $V_{2}$ 上への射影行列 $P_{2}$ が交換可能な場合、
すなわち、
の場合には、
$P_{1}P_{2}$ が $V_{1}$ と$V_{2}$ の
共通部分の上への射影行列になる。
証明
$P_{1}$ と $P_{2}$ をそれぞれ部分空間 $V_{1}$ と $V_{2}$ の上への
射影行列とする。
すなわち、$P_{1}$ と $P_{2}$ は、
を満たし、
任意のベクトル $\mathbf{x}$ に対して、
$
P_{1}\mathbf{x} \in V_{1}
$
と
$
P_{2}\mathbf{x} \in V_{2}
$
であるとする。
このとき、$P_{1}$ と $P_{2}$ が
を満たすならば、
積の転置行列 の性質 から
が成立するので、$P_{1}P_{2}$ は
射影行列である。
また、
$\mathbf{y}$ を任意のベクトルとすると、
であり、
$(3)$ を用いると、
同じベクトルが
であるので、
$P_{1}P_{2} \mathbf{y} $ は、
部分空間 $V_{1}$ のベクトルであり、
なおかつ、
部分空間 $V_{2}$ のベクトルでもある。
このことは、
$P_{1}P_{2} \mathbf{y} $ が
$V_{1}$ と $V_{2}$ の共通部分 $V_{1} \cap V_{2}$ に属するベクトルであると言い表される。
すなわち、
である。
以上の $(1)$ $(2)$ $(3)$ から、
$P_{1}P_{2}$ は $V_{1}$ と $V_{2}$ の共通部分の部分空間 $V_{1} \cap V_{2}$ の上への射影行列である。
スペクトル分解
正規行列 $A$ は、
固有値 $\overline{\lambda}_{i}$ の固有空間 $E_{\overline{\lambda}_{i}}$ 上への射影行列 $P_{\overline{\lambda}_{i}}$ によって、
と表すことができる。
ここで、$r$ は、値の異なる固有値の数である。
これを行列の
スペクトル分解と呼ぶ。