行列のスペクトル分解とその証明

  正規行列 $A$ は、 固有値 $\overline{\lambda}_{i}$ の固有空間 $E_{\overline{\lambda}_{i}}$ 上への射影行列 $P_{\overline{\lambda}_{i}}$ によって、

行列のスペクトル分解00

と表すことができる。 ここで、$r$ は、値の異なる固有値の数である。 これを行列のスペクトル分解と呼ぶ。


  証明

  $A$ を $n$ 次正規行列とし、 固有値 $\lambda$ の固有ベクトルを $ \mathbf{a} $ と表す。 すなわち、

行列のスペクトル分解01

とする。 ここで、

行列のスペクトル分解02

である。
  $(1)$ は、

行列のスペクトル分解03

と表せる。
  $(3)$ は、 同次連立一次方程式である。 一般に、 同次連立一次方程式の解が自明な解以外の解(0でない解)を持つことと、 係数行列の行列式が0であることは同値であるので、 $(3)$ が $(2)$ を満たす解を持つことと、 $(3) の$係数行列の行列式が $0$ であることが同値である。 すなわち、

行列のスペクトル分解04

が成立する。 右側は固有方程式と呼ばれる。
  $(4)$ の固有方程式は、 $\lambda$ に関する $n$ 次方程式であるので、 代数学の基本定理によって、 必ず $n$ 個の解が存在する。 それらを

行列のスペクトル分解05

と表すことにする。 いま、この中に値の異なる解が $r$ 種類だけあるとし、 それらを

行列のスペクトル分解06

と表す。 また、 $(5)$ の中に $(6)$ のそれぞれが $m_{1}, m_{2}, \cdots, m_{r}$ 個ずつ含まれるとする。 すなわち、

行列のスペクトル分解07

あるとする。 このとき、 $m_{1}, m_{2}, \cdots, m_{r}$ の合計数は、 解の総数 $n$ に等しくなくてはならないので、

行列のスペクトル分解08

が成立する。 それぞれの $m_{i}$ は、解の $\overline{\lambda}_{i}$ の重複度と呼ばれる。
  ところで、 正規行列は対角化可能な行列であり、 対角化可能な行列は、 各固有値の重複度とその固有空間の次元が等しいことが知られている。 したがって、 固有値 $\overline{\lambda}_{i}$ の固有空間 $E_{\overline{\lambda}_{i}}$ の次元を $d_{i}$ と表すと、

行列のスペクトル分解09

が成立し、 これと $(7)$ から、

行列のスペクトル分解10

が成立する。 よって、 固有空間の次元の総和は、 行列の作用するベクトル空間 ($V$とする) の次元 $n$ に等しい。
  固有空間 $E_{\overline{\lambda}_{i}}$ の次元が $d_{i}$ であるので、 $E_{\overline{\lambda}_{i}}$ の正規直交基底は $d_{i}$ 個のベクトルから成る。 それを

行列のスペクトル分解11

と表すと、 正規直交基底であることから、

行列のスペクトル分解12

が成立する。 ここで、 $k, l = 1,2,\cdots, d_{i}$ であり、 $\delta_{kl}$ はクロネッカーのデルタである。
  この正規直交基底を全ての固有値に渡って並べると、

行列のスペクトル分解13

と表される。 これらを数え上げると、 $ d_{1}+ d_{2} + \cdots + d_{r} $ 個になるが、 $(8)$ より、 その数は、 $n$ に等しいことが分かる。 よって、 $(10)$ は、 各固有空間内で直交する総数 $n$ のベクトルである。
  ところで、 正規行列の固有値の異なる固有空間は、互いに直交するので、 $(10)$ の中の固有値の異なるベクトル同士は、 直交する。 すなわち、$i \neq j$ の場合、どんな $k, l$ に対しても、

行列のスペクトル分解14
が成立する。
  $(9)$ と $(11)$ は、 $(10)$ に含まれるベクトルのどれとどれをとっても直交することを表している。 また、$(10)$ の総数は $n$ であり、 それぞれが大きさ $1$ のベクトルであることから、 次の結論を得る。 すなわち、 $(10)$ は、 ベクトル空間 $V$ の正規直交基底である。
  従って、$V$ の任意のベクトル $\mathbf{x}$ は、 $(10)$ を構成するベクトルの線形結合によって

行列のスペクトル分解15

のように表すことができる。 各係数は、 $(10)$ が正規直交基底を成すことから求められる。 すなわち、

行列のスペクトル分解16

と求められる。 ここで、 2行目を求めるときには、異なる固有値の固有ベクトルが直交すること $(11)$ を用いた。 また、4行目を求めるときには、 $(9)$ を用いた。
  $(13)$ を $(12)$ に代入すると、

行列のスペクトル分解17

と表される。 この式が任意の $\mathbf{x}$ に対して成立することから、 $\{ \cdots \}$ の部分は、単位行列である。 すなわち、

行列のスペクトル分解18

が成立する(正方行列が等しいための条件を参考)。
  ここで、行列 $P_{\overline{\lambda}_{k}}$ を

行列のスペクトル分解19

と定義すると、 $(14)$ は、

行列のスペクトル分解20

と表される。 それぞれの $ P_{\overline{\lambda}_{k}}$ は、 $(10)$ が正規直交基底を成すことから、

行列のスペクトル分解21
を満たし、 さらに、

行列のスペクトル分解22

を満たすので、射影行列である。 また、 任意のベクトル $\mathbf{x}$ に $ P_{\overline{\lambda}_{k}}$ を掛けたベクトルが

行列のスペクトル分解23

となり、 固有空間 $E_{\overline{\lambda}_{k}}$ の基底の線形結合で表されることから、 $P_{\overline{\lambda}_{k}} \mathbf{x}$ は、 $E_{\overline{\lambda}_{k}}$ の要素である。 すなわち、

行列のスペクトル分解24

である。 このことは、 $P_{\overline{\lambda}_{k}}$ が任意のベクトルを固有空間 $E_{\overline{\lambda}_{k}}$ のベクトルに変換する射影行列であることを表している。
  よって、 $P_{\overline{\lambda}_{k}} \mathbf{x}$ に $A$ を掛けると、

行列のスペクトル分解24

となる。
  $(15)$ と $(16)$ を用いて、 任意のベクトル $\mathbf{x}$ に対し、 $A$ を掛けたベクトル $A\mathbf{x}$ を表すと、

行列のスペクトル分解26

となる。 $\mathbf{x}$ が任意のベクトルであるので、 ここから

行列のスペクトル分解27

が成立することが分かる。
  ゆえに、 正規行列 $A$ は、 $A$ の各固有値とその固有空間上への射影行列の積の線形結合によって表すことができる。 これを行列のスペクトル分解と呼ぶ。







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