単位行列の性質と公式 ~ 証明付 ~
単位行列の定義
対角成分が $1$ で、それ以外の成分が $0$ である正方行列を
単位行列という。
すなわち、$n \times n$ の行列 $I$ が
を満たすとき、$I$ を単位行列という。
具体例
2行2列の場合の単位行列 $I_{2}$ は、
である。3行3列の場合の単位行列 $I_{3}$ は、
である。4行4列の場合の単位行列 $I_{4}$ は、
である。
ベクトルとの積
単位行列 $I$ をベクトル $\mathbf{x}$ に掛けても、
ベクトルは変化しない。すなわち、
が任意のベクトルに対して成立する。
この性質を単位行列の定義としてもよい。
具体例を以下に記す。一般的な証明は
こちら。
具体例
2次元ベクトルを
と表すと、
2行2列の
単位行列 $I_{2}$ が
であるので、
行列の積の定義から、
が成り立つ。
同じように、
3次元ベクトルを
と表すと、
3行3列の
単位行列 $I_{3}$ が
であるので、
行列の積の定義から、
が成り立つ。
行列との積
行列の左右から単位行列を掛けても、その行列は変わらない。
すなわち、
が成り立つ。
具体例
2行2列の行列を
と表すと、
2行2列の
単位行列 $I_{2}$ が
であるので、
行列の積の定義から、
が成り立つ。
同じように、
3行3列の行列を
と表すと、
3行3列の
単位行列 $I_{3}$ が
であるので、
行列の積の定義から、
が成り立つ。
単位行列の行列式
単位行列の
行列式は 1 に等しい。
すなわち
が成り立つ。
単位行列の逆行列など
単位行列の逆行列は単位行列である。
すなわち、
が成り立つ。
単位行列は逆行列を持つので、
正則行列である。
他にも単位行列は以下の行列でもある。
単位行列の固有値/固有ベクトル
単位行列の
固有値は $1$ であり、
固有ベクトルは任意のベクトルである。
なぜなら、
単位行列をベクトルに掛けても、そのベクトルが変わらないからである。
すなわち、
任意のベクトル $\mathbf{x}$ に対して、
が成り立つからである。
クロネッカーのデルタによる表現
単位行列の定義
と
クロネッカーのデルタの定義
を比べると分かるように、
単位行列の各成分は、
と表される。
この表現を用いると、
単位行列とベクトルの積の性質
と、
単位行列と行列の積の性質
は、以下のように証明される。
証明
$I^{(n)}$ を $n \times n$ の単位行列とし、
$\mathbf{x}$ を $n$ 次のベクトルとする。
このとき、
行列の積の定義より、
が $(i=1,2,\cdot, n)$ に対して成り立つ。
したがって、$I \mathbf{x}=\mathbf{x}$ である。
同じように、$A$ を任意の $n \times m$ の行列とすると、
が成り立つ
($n \times n$ の単位行列と $m \times m$ の単位行列をともに $I$ と表していることに注意)。
したがって、$IA = AI = A$ である。
正規直交基底による表現
$n$ 次元ベクトル空間上の単位行列 $I$ は、
任意の
正規直交基底
によって、
と表される。ここで $T$ は
転置を表す記号である。
証明
$n$ 次元ベクトル空間上の単位行列 $I$ とは、対角成分が $1$ で、
その他の成分が $0$ の $n$ 次正方行列である。
基本ベクトル $\mathbf{e}_{i}$ $(i=1,2,\cdots,n)$ を
と定義すると、
これらは、
を満たすため、
正規直交基底を成す。
ここで $(\cdot, \cdot)$ は
内積(ドット積)を表す記号である。
また、
単位行列 $I$ は、
$$
\tag{1}
$$
と表される。
ここで、任意の
正規直交基底 $\mathbf{u}_{i}$ $(i=1,2,\cdots,n)$ によって、
行列 $R$ を
$$
\tag{2}
$$
と定義する。
$\mathbf{u}_{i}$ は
正規直交基底であるので、
$$
\tag{3}
$$
を満たす。
これと $(1)$ と
積の転置の性質により、
である。
これより、
$$
\tag{4}
$$
も成り立つ
(証明は
「
直交行列は片方のみで定義できる」を参考)。
$(2)$ と $(3)$ より、
$$
\tag{5}
$$
が成立することから、$(1)$ と $(5)$ と
転置行列の積の性質から
が成立する。
これと $(4)$ から、
が成立する。すなわち、
単位行列は任意の正規直交基底によって表される。
この関係を $\mathbf{u}_{i}$ が
完全系を成すと呼ぶこともある。