QR分解とは?
QR分解: $2 \times 2$ の場合
任意の $2 \times 2$ の
正則行列 $X_{2}$ は、
$2 \times 2$ の
直交行列 $Q_{2}$
と
上三角行列 $R_{2}$ の積に分解できる。
すなわち、
と分解できる。
これを
($2 \times 2$ の場合の)
QR分解という。
証明
$X_{2}$
の
列ベクトルを $\mathbf{x}_{1}, \mathbf{x}_{2}$ と表す。
$X_{2}$ が正則行列であるので、
$\mathbf{x}_{1}$ と $\mathbf{x}_{2}$ は互いに線形独立である
(証明は「
正則行列⇔列ベクトルが線形独立」を参考)。
そこで
グラムシュミットの直交化法によって、
互いに
直交する
ノルムが 1 のベクトルを生成することができる。
すなわち、$\mathbf{y}_{1}, \mathbf{y}_{2}$ を
$$
\tag{1.1}
$$
と定義すると、
$$
\tag{1.2}
$$
が成り立つ。
ここで $\delta_{ij}$ は
クロネッカーのデルタであり、
$i,j=1,2$ である。
$(1.1)$ から
$\mathbf{x}_{i}$ を
と表せるが、
行列を用いると
$$
\tag{1.3}
$$
と表せる。
ここで行列 $Q_{2}$ と $R_{2}$ を
$$
\tag{1.4}
$$
と定義すると、
$(1.3)$
は、
$$
\tag{1.5}
$$
と表せる。
$(1.2)$ から
が成り立つので、$Q_{2}$ は
直交行列
である
(正確には
「
直交行列 ⇔
列ベクトルが正規直交系」を参考)。
また、$R_{2}$ は
上三角行列であるので、
次の関係が示された。すなわち、
任意の $2 \times 2$ の正則行列 $X_{2}$ は、直交行列 $Q_{2}$
と上三角行列 $R_{2}$ の積によって
$(1.5)$ にように分解できる。
QR分解の具体例: $2 \times 2$ の場合
次の行列
s
を
QR分解せよ。
解答例
$X_{2}$ の
行列式は
であるので、
$X_{2}$ は
正則行列である。
よって、
QR分解可能である。
$X_{2}$ の列ベクトルを
とし、
と表し、
$(1.1)$ に従って、$\mathbf{y}_{1}, \mathbf{y}_{2}$ を求めると、
$\mathbf{y}_{1}$ は
であり、$\mathbf{y}_{2}$ は
である。
$(1.4)$ に従って
$Q_{2}$ と
$R_{2}$ を求めると、
である。
これらにより、
$X_{2}$
が
と分解できることは、
直接計算することによって確認できる。
QR分解: $n \times n$ の場合
任意の
正則行列 $X$ は、
直交行列 $Q$
と
上三角行列 $R$ の積に分解できる。
すなわち、
と分解できる。
これを正則行列の
QR分解という。
証明
$X$ を $n\times n$ の
正則行列とし、
列ベクトルを $\mathbf{x}_{1}, \mathbf{x}_{2}, \cdots, \mathbf{x}_{n}$ と表す。
$X$ が正則行列であるので、
$\mathbf{x}_{1}, \mathbf{x}_{2}, \cdots, \mathbf{x}_{n}$ は互いに線形独立である
(証明は「
正則行列⇔列ベクトルが線形独立」を参考)。
そこで
グラムシュミットの直交化法によって互いに直交するノルムが 1 のベクトルを生成することができる。
すなわち、
$$
\tag{3.1}
$$
と定義すると、
$$
\tag{3.2}
$$
が成り立つ。
ここで $\delta_{ij}$ は
クロネッカーのデルタであり、
$i,j=1,2,\cdots,n$ である。
$(3.1)$ から $\mathbf{x}_{i}$ を
と表せるが、
行列を用いると
$$
\tag{3.3}
$$
とまとめられる。
行列 $Q$ と $R$ を
と定義すると、上の式は、
$$
\tag{3.4}
$$
と表せる。
$Q$ を構成する列ベクトル
$\mathbf{y}_{1}, \mathbf{y}_{2}, \cdots, \mathbf{y}_{n}$ が
$(3.2)$ を満たすので、
$Q$ は直交行列である。
すなわち、
を満たす (証明は
「
直交行列 ⇔
列ベクトルが正規直交系」を参考)。
また、
$R$
は上三角行列であるので、次の関係が示された。すなわち、
任意の正則行列 $X$ は、
直交行列 $Q$ と上三角行列 $R$ の積によって
$(3.4)$
のように分解できる。