実対称行列の4つの大切な性質

最終更新 2018年 5月3日
実対称行列の定義
  各成分が実数の対称行列、すなわち、
実対称行列の定義
を満たす行列を実対称行列という。 ここで $A^{T}$ は $A$ の転置行列を表し、 $A^{*}$ は $A$ の各成分を複素共役にした行列である。
例:
  次の2つの行列
実対称行列の例
は各成分が実数であり、 対称行列 ($A^{T}=A$) であるので、実対称行列である。

反例:
  次の2つの行列
は実対称行列ではない。 左側の行列は実行列ではあるが、 対称行列ではない。 右側の行列は、 対称行列ではあるが、 実行列ではない。
固有値が実数
  実対称行列 $A$ の固有値 $\lambda$ は実数である。 すなわち
実対称行列の固有値は実数
を満たす。

証明
  任意の正方行列には固有値と固有ベクトルが存在するので、 $n$ 次実対称行列 $A$ にも固有値と固有ベクトルが存在する。 そこで $A$ の固有値 $\lambda$ の固有ベクトル $\mathbf{a}$ と表すと、
が成り立つ。
  行列 $A$ と 固有ベクトル $\mathbf{a}$ を成分によって、
と表すことによって、 $(1)$ を成分ごとに表すと、
である ($i=1,2,\cdots,n$)。 これより、
が成り立つ。 この式は、 $A$ と $\mathbf{a}$ の複素共役 $A^{*}$と $\mathbf{a}^{*}$ を
と定義することにより、
と表される。 また $ A^{*} = A $ (実対称行列の定義) によって、
と表される。
  この関係と積の転置行列の性質、 および $ A^{T} = A $ (実対称行列の定義) を用いると、
が成り立つこと分かるが、 一方で左辺は、 $(1)$ により、
と表せるので、
が成り立つ。
  ここで両辺に現れた ${\mathbf{a}^{*}}^{T} \mathbf{a}$ は、
と成分で表せるので、 $\mathbf{a}\neq 0$ であることから、
であることが分かる。
  ゆえに $(2)$ の両辺を ${\mathbf{a}^{*}}^{T} \mathbf{a}$ で割ることができ、 それによって、
を得る。 すなわち、 実対称行列 $A$ の固有値 $\lambda$ は実数である。

固有ベクトルが直交
  実対称行列 $A$ の異なる二つの固有値 $\lambda_{i}$ と $\lambda_{j}$ の固有ベクトルをそれぞれ $\mathbf{a}_{i}$ と $\mathbf{a}_{j}$とする。 このとき、
が成り立つ。 すなわち、 異なる固有値を持つ固有ベクトルは直交する。

証明
  実対称行列 $A$ の異なる二つの固有値 $\lambda_{i}$ と $\lambda_{j}$ の固有ベクトルをそれぞれ $\mathbf{a}_{i}$ と $\mathbf{a}_{j}$とする。
内積と転置行列の関係を用いると、 $A$ が対称行列であることから、
が成り立つ。 一方で同じ内積が
であるので、
が成り立つ。
が成り立つ。

直交行列によって対角化可能
  任意の実対称行列 $A$ は、 直交行列によって対角化可能である。 すなわち、
を満たす対角行列 $\Lambda$ と直交行列 $R$ が存在する。

証明
  $n \times n$ の実対称行列 $A$ が直交行列によって対角化可能であることを数学的帰納法によって証明する。
$n=1$ の場合
  $n=1$ の場合は、 どんな行列も対角行列であるため明らかである。
$n=k$ の場合
  $k-1$ 次実対称行列が対角化可能であることを仮定し、 $k$ 次実対称行列 $A$ が対角化可能であることを示す。
  $A$ の固有値を $\lambda_{1}$ とし、大きさ $1$ の固有ベクトルを $\mathbf{u}_{1}$ とする。すなわち、
とする。 一般に $0$ でない任意のベクトルを含むように正規直交基底を構成することができることから、 $\mathbf{u}_{1}$ を含む正規直交基底が存在し、 それを
と表す。 正規直交基底を成すことから、
が成り立つ。 ここで $i,j = 1,2,\cdots,k$ であり、 $\delta_{ij}$ はクロネッカーのデルタ
である。 また内積を
と定義した ( $\mathbf{u}_{i}^{T}$ は $\mathbf{u}_{i}$ の転置 )。
  また、 基本ベクトル $\mathbf{e}_{1}$, $\mathbf{e}_{2}$, $\cdots$, $\mathbf{e}_{k}$ を
と定義すると、 これらも正規直交基底を成す。 すなわち、
が成り立つ。
  これらを用いて行列 $R_{k}$ を
と定義すると、 積の転置行列の性質から
が示される。ここで $I$ は単位行列である。 これより $ R_{k} R_{k}^{T} = I $ も示されるので (直交行列は片側で定義可能を参考 )、
が成り立つ。 すなわち、 $R_{k}$ は直交行列である。 また $R_{k}$ の定義から
が成り立つ。 ここで $i=1,2,\cdots, k$ である。
  これらの関係によって、
が成り立つ。 したがって、 基本ベクトル $\mathbf{e}_{1}$ は $R_{k}^{T} A R_{k}$ の固有値 $\lambda_{1}$ の固有ベクトルである。
  このことと $\mathbf{e}_{1}$ が
であることから、 行列 $R_{k}^{T} A R_{k}$ は、 次の形を持つ行列でなくてはならない。
すなわち、1 列の 2 行以降の成分が全て $0$ でなくてはならない。
  ところで、 $A$ が対称行列であることから、積の転置行列の性質により、
が成立する。よって、$R_{k}^{T} A R_{k}$ もまた対称行列である。 この事から $R_{k}^{T} A R_{k}$ は、次の形を持つ行列でなくてはならないことが分かる。
ここで、
の部分は、$k-1$ 次正方行列であり、 $R_{k}^{T} A R_{k}$ が対称行列であることから、 この部分もまた対称行列である。 そこで、この部分を $A_{k-1}$ と置くと、
と表され、$A_{k-1}^{T} = A_{k-1}$ が成立する。 ここで点線は、便宜上のものに過ぎない。
  帰納法の仮定により、任意の $k-1$ 次の実対称行列は、対角化可能であるとしたので、 $A_{k-1}$ は対角化可能である。すなわち、
を満たす $k-1$ 次の直交行列 $R_{k-1}$ と対角行列 $\Lambda_{k-1}$ が存在する。 この $R_{k-1}$ を使って、
を定義すると、
が成り立つので、 $\overline{R_{k}}$ は直交行列であり、 これによって、
が成り立つ。この式は、 行列 $\Lambda$ と $R$ を
と定義すると、
と表されるが、 $\Lambda_{k-1}$ が $k-1$ 次の対角行列であることから、 $\Lambda$ は $k$ 次対角行列であり、 $R_{k} $ と $\overline{R_{k}}$ が直交行列であることから、 $R$ もまた直交行列である。 したがって、 上式は $k$ 次の実対称行列 $A$ が直交行列 $R$ によって対角化されることを表す式である。

  以上より、 帰納法によって、実対称行列が直交行列によって対角化可能であることが示された。

固有ベクトルが正規直交基底
  任意の実対称行列 $A$ の固有ベクトルによって 正規直交基底を構成することが出来る。 証明は下記リンクを参考。
$B^{T}B$ は実対称行列
  任意の実正方行列 $B$ によって、
を定義すると、 $A$ は実対称行列である。

証明
  任意の実正方行列 $B$ によって、、
を定義すると、 $B$ が実行列であるので、 $A$ も実行列であり、 転置行列の性質から、
が成り立つ。
  したがって、$A$ は実対称行列である。


  半正定値行列射影行列は、 この形で表せる行列であり、実対称行列である。 したがって、 これらは直交行列によって対角化可能な行列である。
任意の行列から生成
  任意の実正方行列 $B$ によって、
を定義すると、 $A$ は実対称行列である。

証明
 
とする。 $B$ が実行列であるので、 $A$ もまた実行列である。 また、 転置行列の転置行列はもとの行列になることから、
が成り立つ。
  したがって、$A$ は実対称行列である。