転置行列の定義と8つの大切な性質

最終更新 2018年 3月15日
転置行列の定義
  ある行列の行と列を入れ替えた行列をその行列の転置行列という。 行列 $A$ の転置行列を $A^{T}$ とすると、
転置行列の定義
が各成分に対して成り立つ ( 添え字の順序が入れ替わっている )。

  行列
の転置行列は、
転置行列例
である。
  行列
の転置行列は、
である。
  積の転置行列
  行列 $A$ と $B$ の積の転置行列は、 積の順序を逆にした転置行列の積に等しい。 すなわち、
が成り立つ。

証明
  $A$ を $l \times m$ の行列、 $B$ を $m \times n$ の行列とする。
このとき、 積 $AB$ の転置行列の $i$ 行 $j$ 列成分 $(AB)^{T}_{ij}$ に対し、 転置行列の定義と行列の積の定義から、
が成り立つ。
  これより、
である。

  転置行列の転置行列
  行列 $A$ の転置行列の転置行列は、もとの行列の積に等しい。すなわち、
転置行列の転置行列
が成り立つ。

証明
    任意の成分に対して 転置行列の定義から、
が成り立つ。ゆえに、
転置行列の転置行列
である。

転置行列の逆行列
  行列 $A$ の転置行列 $A^{T}$ の逆行列は、 $(A^{-1})^{T}$ である。 すなわち
が成り立つ。

証明
  行列 $A$ が逆行列を持つとする。 すなわち、
を満たす $A^{-1}$ が存在するとする。
  積の転置行列の性質
を $A^{-1}A$ に対して適用すると、 上の第一式から、
が成り立ち、 上の第二式から、
が成り立つことが分かる。
  まとめると、
である。
  この式は $(A^{-1})^{T}$ が $A^{T}$ の逆行列がであることを表している。 すなわち、
である。


  行列 $A$ が
であるとすると、 2x2の逆行列の計算から
である。 これより
である。一方で
であるので、 再び 2x2の逆行列の計算から
である。 したがって、
が成り立つ。
転置行列の行列式
  $A$ を正方行列とするとき、$A$ の転置行列 $A^{T}$ の行列式 $|A^{T}|$ は、 もとの行列 $A$ の行列式 $|A|$ に等しい。すなわち、
転置行列の行列式
である。

証明
  $n$ 次正方行列 $A$ の転置行列 $A^T$ の行列式は、定義より
である。 ここで $\sigma$ は置換を表し、$S_{n}$ は置換全体の集合である。 また $\mathrm{sgn}(\sigma)$ は置換符号である(行列式の定義を参考)。
  転置行列の定義より $A_{ij}^{T} = A_{ji}$ であるので、
と表せる。
  一般に置換 $\sigma$ が全単射であるので、 逆写像 $\sigma^{-1}$ が存在し、
を満たす $(i=1,2,\cdots,n)$。 これを用いると、
と表せる。
  $\{ \sigma(1), \sigma(2), \cdots, \sigma(n) \}$ は $\{ 1, 2, \cdots, n \}$ の順番を入れ替えたものであるので、 どれか一つの $j$ $(j=1,\cdots,n)$ が必ず $\sigma(j) = 1$ を満たす。このことから
と表してよい。最後の行は積の順番を入れ替えただけである。
  同じように、 $\{ \sigma(1), \sigma(2), \cdots, \sigma(n) \}$ のうちどれか一つの $k$ $(k=1,\cdots,n)$ が必ず $\sigma(k) = 2$ を満たす(ただし $k\neq j$ である)。 このことから
と表してよい。
  以下同様の手順を最後まで繰り返すことによって
を得る。 ここで、偶置換の逆置換もまた偶置換であり、奇置換の逆置換もまた奇置換であるので、 $\mathrm{sgn}(\sigma^{-1}) = \mathrm{sgn}(\sigma)$ が成立することから、
と表せる。
  ところで $\sigma$ が $\{1,2,\cdots,n\}$ を同じ $\{1,2,\cdots,n\}$ に写す写像であることから、 置換 $\sigma$ 全体の集合 $S_{n}$ と、逆置換 $\sigma^{-1}$ 全体の集合は一致する。 従って、 $\sigma$ 全体に渡る総和 $\sum_{\sigma \in S_{n}}$ は、 $\sigma^{-1}$ 全体に渡る総和 $\sum_{\sigma^{-1} \in S_{n}}$ に一致する。このことから、
と表してよい。
  最後に $\sigma^{-1} = \xi $ と置くと
を得る。


  行列 $A$ が
であるとき、
である。 一方、
であるので、
である。したがって、
が成り立つ。
内積と転置
  任意の $n$ 次実ベクトル $\mathbf{x}, \mathbf{y}$ の内積を
と定義するとき、任意の正方行列 $A$ は、
を満たす。
 
  転置行列のトレース
  $A$ を正方行列とするとき、$A$ の転置行列 $A^{T}$ のトレースは、$A$ のトレースに等しい。すなわち、
転置行列のトレース
である。

証明
  $n$ 次正方行列 $A$ の転置行列 $A^{T}$ の $i$ 行 $j$ 列成分は、 行列の転置の定義より、
転置行列のトレース
である ($i,j=1,2 \cdots , n$)。
  これとトレースの定義から、
転置行列のトレース
が成り立つ。

転置行列の固有値
  転置行列の固有値は、 もとの行列の固有値でもある。

証明 :
  正方行列 $A$ の転置行列 $A^{T}$ の固有値と固有ベクトルをそれぞれ $\lambda$ と $\mathbf{x}$ とする。
転置行列の固有値
これは
と同次連立一次方程式の形で表せる。
  同次連立一次方程式が自明でない解 ($\mathbf{x} \neq 0$ の解)を持つための必要十分条件は、 係数行列の行列式が $0$ になることである。 したがって、
が成り立つ。 これは転置行列 $A^{T}$ に対する固有方程式である。
  転置行列の転置行列がもとの行列に等しいことから $\lambda I$ は、
と表せる。 また $I^{T}=I$ であるので、
が成り立つ。 よって、 固有方程式を
と表せる。
  また、 一般に転置行列の行列式はもとの行列の行列式に等しいことから、
であるので、
が成り立つ。
  ここで再び 同次連立一次方程式が自明でない解 ($\mathbf{x} \neq 0$ の解)を持つための必要十分条件が 係数行列の行列式が $0$ であることを用いると、 同次連立一次方程式
は $\mathbf{y}\neq 0$ の解を持つことが分かる。 この式を書き換えると、
である。 これは $\lambda$ が $A$ の固有値であることを表している。
  以上から、 転置行列 $A^{T}$ の固有値は、 もとの行列 $A$ の固有値 でもある。

転置行列のランク
  転置行列のランクは、 もとの行列のランクに等しい。 すなわち、
転置行列のランク
が成り立つ。