行列式の定義  

最終更新 2018年 1月6日
  $n \times n $ の行列 $A$ の行列式 $|A|$ は、
行列式の定義
と定義される。
  ここで $ A_{ij}$ $(i,j=1,2,\cdots,n)$ は、行列 $A$ の各成分である。 $\sigma$ は置換であり、$S_{n}$ は置換全体の集合である。また $\mathrm{sgn}(\sigma)$ は置換符号である。 以下に詳細を記す。

  解説

  行列式の定義
行列式の定義
に含まれる記号の定義を例を挙げながら説明する。
置換 $\sigma$
  自然数 $n$ に対する置換 $\sigma$ とは、 自然数の集合 $\{1,2,\cdots, n\}$ を同じ集合 $\{1,2,\cdots, n\}$ に変換する 1 対 1 の写像である。  以下の例を参考にすると理解しやすい。
$n=2$ の場合
  この場合、 置換 $\sigma$ は自然数の集合 $\{1,2\}$ を同じ集合 $\{1,2\}$ に変換する 1 対 1 の写像であり、 2 種類の写像が存在する。 一つは、 1 を 1 に変換し、 2 を 2 に変換する写像である。 すなわち、
である。  もう一つは、 1 を 2 に変換し、 2 を 1 に変換する写像である。  すなわち、
である。 これらはともに、 集合 $\{1,2\}$ を同じ集合 $\{1,2\}$ に変換する 1 対 1 の写像である。
  前者を
と表し、 後者を
と表すこともある。 この表記は、 $\sigma$ が上の行にある数字を下の行にある数字に変換する写像であることを表している。
$n=3$ の場合
  この場合、 置換 $\sigma$ は自然数の集合 $\{1,2,3\}$ を同じ集合 $\{1,2,3\}$ に変換する 1 対 1 の写像であり、 以下の 6 種類が存在する。
ここで 左側の一番上の
は、 1 を 1 に変換し、 2 を 2 に変換し、 3 を 3 に変換する写像である。   同じように 右側の一番上の
は 1 を 1 に変換し、2 を 3 に変換し、 3 を 2 に変換する写像である。 以下同様である。
  これらをまとめて
と表すこともある。 この表記では、 $\sigma$ が 上の行にある数字を下の行にある数字に変換する写像であることを表している。
  置換は、 集合 $\{1,2 \cdots, n \}$ を $\{1,2 \cdots, n \}$に変換する1対1の写像であるので、 結果的に集合の並び順を入れ替えるだけの写像になる。 そのことは上の例からも見て取れる。
置換全体の集合 $S_{n}$
  自然数 $n$ に対する置換全体の集合 $S_{n}$ とは、 $n$ に対する置換の全てを集めた集合である。 これも以下の例を参考にすると理解しやすい。
$n=2$ の場合
  この場合、 上で述べたように 2 種類の置換
が存在する。 置換全体の集合 $S_{2}$ は、 これらの写像を要素とする集合であるから、
である。
$n=3$ の場合
  この場合、 上で述べたように 6 種類の置換
が存在する。 置換全体の集合 $S_{3}$ は、 これらの写像を要素とする集合であるから、
である。
偶置換と奇置換
  置換符号$\mathrm{sgn}(\sigma)$ の定義を述べるために、 偶置換と奇置換を定義する。
  上に述べたように 置換 $\sigma$ は、 自然数の集合 $\{1,2,\cdots, n \}$ の並び順を替えるだけの写像であるが、 並び順を変える操作は、 数字の交換を複数回行う操作によって達成される。
  その場合の交換回数が偶数になる置換を偶置換と呼ぶ。 一方、奇数回になる置換を奇置換と呼ぶ。 これも以下の例を参考にすると理解しやすい。
$n=2$ の場合
  この場合、 上で述べたように 2 種類の置換
が存在する。
  ここで右側の $\sigma$ は、 一行目の数 $(1, 2)$ の $1$ と $2$ を交換し、$(2, 1)$ とする操作と同等な写像である。 したがって、この $\sigma$ は奇数回の交換(この場合1回の交換)と同等な写像であるため奇置換である。
  一方で左側の $\sigma$ は、 一行目の数 $(1, 2)$ の交換をせずに $(1,2)$ とする操作と同等な写像である。 したがって、この $\sigma$ は偶数回の交換(この場合0回の交換)と同等な写像であるため偶置換である。
  以上から、 $n=2$ の場合、 置換全体の集合 $S_{2}$ には偶置換と奇置換が一つずつ含まれることが分かる。
$n=3$ の場合
  この場合、 上で述べたように 6 種類の置換
が存在する。
  この中で例えば
は、 一行目の数 $(1, 2, 3)$ の $1$ と $2$ を交換して $(2, 1, 3)$ とし、 その後に $1$ と $3$ を交換して $(2, 3, 1)$ とする交換回数 2 回の操作と同等な写像である。 従って、 この $\sigma$ は偶数回の交換と同等な写像であるので偶置換である。
  一方で、例えば
は、 一行目の数 $(1, 2, 3)$ の $1$ と $2$ を交換して $(2, 1, 3)$ とする交換回数 1 回の操作と同等な写像である。 従って、 この $\sigma$ は奇数回の交換と同等な写像であるので奇置換である。
置換符号 $\mathrm{sgn}(\sigma)$
  置換符号 $\mathrm{sgn}$ とは、 $\sigma$ が偶置換であれば $+1$、 奇置換であれば $-1$ を割り当てる置換 $\sigma$ の関数である。 すなわち、
である。
$n=2$ の場合
  この場合、 上で述べた 2 種類の置換があり、
は偶置換である。 よって、この $\sigma$ に対する置換符号は、
である。 一方で、
は奇置換である。 よって、この $\sigma$ に対する置換符号は、
である。
$n=3$ の場合
  この場合、 上で述べたように 6 種類の置換がある。 これらのうち、
はどれも偶置換であるので、 どの $\sigma$ に対しても
である。 一方で、
はどれも奇置換であるので、 どの $\sigma$ に対しても
である。
行列式の定義
  先にも述べたように nxn の行列 $A$ の行列式は、
行列式の定義
である。 これまで述べてきた記号の定義を用いると、 以下のように説明できる。
  まず、 行列の成分の添え字に現れている $\sigma (1)$は、 自然数 $1$ を写像 $\sigma$ で変換した値である。 同じように、 $\sigma (i)$は、 自然数 $i$ を写像 $\sigma$ で変換した値である。 例えば、
の場合には、
である。
  続いて $\mathrm{sgn}(\sigma)$ は、 各 $\sigma$ に対する置換符号であり、 偶置換であれば +1、 奇置換であれば -1 が割り当てられる。 例えば、
は、 奇置換であるので、
である。
  最後に総和
は、 自然数 $n$ の置換全体の集合に含まれる全ての置換に対して和をとることを表している。 例えば、 $n=3$ の場合の 置換全体の集合 $S_{3}$ は、
であるから、 行列式
は、 $6$ つ項の和になり、 それぞれの項に含まれる置換が $S_{3}$ の要素になる。
行列式具体例 (n=2)
  この場合、 行列式の定義は、
である。 ここで
であるので、 $|A|$ は二つの項の和になる。 いま、 それぞれの置換を
と表すことにすると、 $S_{2}$ は
と表され、
である。 また、 $\sigma_{a}$ は偶置換であり、 $\sigma_{b}$ は奇置換であるので、
である。 したがって、 $|A|$ は、
である。
行列式具体例 (n=3)
  この場合、 行列式の定義は、
である。 ここで
であるので、 $|A|$ は六つの項の和になる。 いま、 それぞれの置換を
と表すことにすると、 $S_{3}$ は
と表され、
である。 また、 $\sigma_{a}, \sigma_{c}, \sigma_{e}$ は偶置換であり、 $\sigma_{b}, \sigma_{d}, \sigma_{f}$ は奇置換であるので、
である。 したがって、 $|A|$ は、
である。