行列の等号の意味と同値条件
定義
行列 $A$ と $B$ の行の数と列の数がともに等しく、
各成分の値が全て等しいときに
と表される。
よって、
$A$ と $B$ がともに $m \times n$ のであり、
$
A=B
$
であるならば、
が全ての $i= 1,2,\cdots,m$ と $j = 1,2,\cdots,n$ に対して成立する。
ここで $A_{ij}$ と $B_{ij}$ はそれぞれ行列 $A$ と $B$ の各成分である。
例:
行列 $A$ が
であるとき、
であるのならば、
である。
正規直交基底による表現
正方行列 $A$ と $B$ が作用するベクトル空間の
正規直交基底を
$\{\mathbf{e}_{i} \}$ と表すとき、
、任意の $\mathbf{e}_{i}, \mathbf{e}_{j}$ に対して、
が成り立つならば、
である。
証明
基本ベクトル
は、
を満たすので、
$\{ \mathbf{e}'_{i} \}$ は
正規直交基底を成す。
ここで、$\delta_{ij}$ は
クロネッカーのデルタであり、
$(\cdot, \cdot)$ はベクトル同士の内積を表す。
すなわち、
である。
$A$ と $B$ を任意の $n$ 次正方行列とし、
と表すと、
各成分は $\{ \mathbf{e}'_{i} \}$ を使って、
と表される ($i,j = 1,2,\cdots,n $)。
したがって、
が成り立つ。
ここで
$\mathbf{e}_{1}, \mathbf{e}_{2}, \cdots, \mathbf{e}_{n}$
を $A$ と $B$ が作用する $n$ 次元ベクトル空間の任意の
正規直交基底とする。
すなわち、
が成り立つするものとする。
また行列 $R$ を
と定義する。
行列 $R$ は $\mathbf{e}_{i} $ を $\mathbf{e}'_{i}$ に変換する行列である。
また、
転置行列の性質と $\{\mathbf{e}'_{i} \}$ が正規直交基底を成すことから、
である ( $R$ は
直交行列である。)。
これらと
行列の転置の性質から、
が成り立つ。
同様に
も成り立つ。
これらより、
であることが分かる。
したがって、
である。
また、
$
R A R^{T}=R B R^{T}
$
であるならば
であるので、
次の関係を得る。すなわち、
である。
内積による表現
任意のベクトル $\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ に対して、
正方行列 $A$ と $B$ が
を満たすならば
である。
証明
$n$ 次正方行列 $A$ と $B$ が作用するベクトル空間の
正規直交基底を
と表す。
仮定により、
任意のベクトル $\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ に対して、行列 $A$ と $B$ が
を満たすので、
$\mathbf{x} = \mathbf{e}_{i}$, $\mathbf{y} = \mathbf{e}_{j}$
の場合にも
が成り立つ $(i,j = 0,1,\cdots, n)$ 。
したがって、
上の性質から
である。
ベクトルに作用させた表現
任意のベクトル $\mathbf{x}$ に対して、正方行列 $A$ と $B$ が
を満たすならば
である (
補足)。
証明
$A$ と $B$ を $n$ 次正方行列とする。また、
任意の
正規直交基底を $\{ \mathbf{e}_{i} \}$ $(i= 1,2,\cdots,n)$ と表す。
仮定により、
任意のベクトル $\mathbf{x}$ に対して、
行列 $A$ と $B$ が
を満たすので、
$\mathbf{x} = \mathbf{e}_{j}$ の場合であっても
が成り立つ。 ($j=1,2,\cdots,n$)。
これより、
が成り立つので、
上の性質から
である。
補足:
上の関係は正方行列に対するものであったが、
正方行列でなくても同じことが成り立つ。
すなわち、
任意の型の行列 $A$ と $B$ ( $A$ と $B$ は同一の型) が作用するベクトル空間の任意のベクトル
$\mathbf{x}$ に対し、
が成り立つならば、
である。
この関係は逆も成り立つ。
すなわち、
であるならば ($A$ と $B$ のすべての成分が等しいのであるならば)、
任意のベクトル $\mathbf{x}$ に対し
が成り立つ。
それゆえ、
この関係を行列が等しいことの定義として用いてもよい。