クロネッカーのデルタを解説 ~性質と使用例~
定義:
$i, j = 1,2, \cdots, n$ とするとき、
で定義される関数を
クロネッカーのデルタ (Kronecker delta) という。
以下で簡単な具体例と使用例を記す。
具体例 (n=3)
クロネッカーのデルタは、
$i, j = 1,2, \cdots, n$ に対して
と定義される。
$n=3$ の場合には、
である。
使用例3: 単位行列
$i, j = 1,2,3$ として、
行列 $A$ の成分をクロネッカーのデルタによって、
と定義する。
このとき、
$(1)$ によって $A$ の各成分は、
となる。
行列の形で表すと、
である。
ゆえに、
各成分がクロネッカーのデルタに等しい行列は単位行列である。
ここで任意の3次元ベクトル $\mathbf{a}$ を
と表すと、
$(1)$ から
が成り立つ。
以上をまとめると、
と表せる。
これは、
ベクトルに単位行列を作用するとそのベクトルになるという
という関係式を各成分ごとに表したものである。
同様に任意の 3x3 の行列 $B$ の各成分を
と表すとき、
$(1)$ を用いると、
が $i,k=1,2,3$ の全てに対して成り立つことが分かる。
これは、
行列に単位行列を作用するとその行列になるという
という関係式を各成分ごとに表したものである。
使用例2: 正規直交基底
$\{ \mathbf{e}_{1}, \mathbf{e}_{2}, \mathbf{e}_{3} \}$
を3次元ベクトル空間の
正規直交基底とする。
このとき
が成り立つ。
これらは $(1)$ により、
とまとめられる。
したがって、
正規直交基底の定義はクロネッカーのデルタを用いて表されうる。
使用例3: 内積
任意の3次元ベクトル $\mathbf{a}$ と $\mathbf{b}$ は、
正規直交基底
$\{ \mathbf{e}_{1}, \mathbf{e}_{2}, \mathbf{e}_{3} \}$ によって
と表すことができる。
これを用いると、
$\mathbf{a}$ と $\mathbf{b}$ の内積は、
$(2)$ により、
とクロネッカーのデルタを用いて表せる。
この式に $(1)$ を用いると、
となり、
標準内積と等しいことが分かる。
使用例4: トレース
任意の3x3の行列 $B$ の各成分にクロネッカーのデルタを掛けて、
全ての成分に渡って足し合わせると、
$B$ の
トレース に等しくなる。
実際に $(1)$ を使って計算してみると、
となる。
以上の性質は3次元の場合についてのみ証明されたが、
任意の有限次元の場合にも成立する。