ユニタリ行列 ~公式と性質~
ユニタリ行列の定義
次の関係
を満たす行列を
ユニタリ行列という。
ここで $\dagger$ は
随伴行列を表す記号である。
具体例
行列
はユニタリ行列である。
ユニタリ行列の積
$U$ と $V$ がユニタリ行列であるとき、
これらの積 $UV$ もまたユニタリ行列である。
すなわち、
が成り立つ。
証明
$U$ と $V$ をユニタリ行列とする。
すなわち、
を満たす行列であるとする。
このとき、
積の随伴行列が
積の順番を逆にした随伴行列の積に等しい
という性質
を用いると、
が成立し、
また、
が成立する。
ゆえに、
が成立するので、
積 $UV$ もまたユニタリ行列である。
ユニタリ行列の逆行列
ユニタリ行列 $U$ の逆行列は
随伴行列である。
すなわち、
である。
証明
一般に正方行列 $A$ の
逆行列とは、
を満たす行列 $B$ である。
このような $B$ を
と表す。
これを踏まえて、
ユニタリ行列の定義
を見てみると、
$U^{\dagger}$ が $U$ の逆行列であることが分かる。
すなわち、
である。
ユニタリ行列は群を成す
$n$ x $n$ のユニタリ行列全体の集合は、
行列の積に対して以下の3つの性質を持つ。
1. 積もまたユニタリ行列になる。
2. 単位元がある。
3. 逆元がある。
このことから、
$n$ x $n$ のユニタリ行列の集合全体が群を成すことが分かる。
これを
ユニタリ群と呼び、$\mathrm{U}(n)$ と表される。
証明
$\mathrm{U}(n)$ を $n$ x $n$ のユニタリ行列全体の集合とする。
このとき、任意の $u \in \mathrm{U}(n)$ に対して、
が成り立つ。
ここで、
$e_{n}$ は $n$ x $n$ の単位行列である。
さて、
ユニタリ行列の積もまたユニタリ行列になるので、
任意の $u,v \in \mathrm{U}(n)$ に対して、
が成り立つ。
また、
単位行列は明らかに
を満たすので、
$e_{n} \in \mathrm{U}(n)$ であり、
任意の $u \in \mathrm{U}(n)$ に対して、
を満たす。
加えて、
任意の $u \in \mathrm{U}(n)$ の
随伴行列 $u^{\dagger}$ には、
が成り立つことを用いると、
$(1)$ により、
が満たされるので、
$u^{\dagger} \in \mathrm{U}(n)$ であり、
が成り立つので
( $(1)$ と同じ式 )、
$u^{\dagger}$ は $u$ の逆行列である。
以上の性質をまとめると、
1. $\mathrm{U}(n)$ の任意の元の積もまた $\mathrm{U}(n)$ の元になる ( $(2)$ のこと )。
2. $\mathrm{U}(n)$ には単位元がある ( $(3)$ のこと )。
3. $\mathrm{U}(n)$ の任意の元には逆元がある ( $(4)$ のこと )。
である。
これは $\mathrm{U}(n)$ が行列の積に対して群を成すことを表している。
ユニタリ行列の行列式
ユニタリ行列 $U$ の行列式 $\det U $ は、
大きさ 1 の複素数である。
すなわち、
が成り立つ。
ユニタリ行列の固有値
ユニタリ行列 $U$ の固有値を $\lambda$、
固有ベクトルを $\mathbf{x}_{\lambda}$ とする。
このとき、
固有値 $\lambda$ は大きさ $1$ の複素数である。
すなわち
を満たす値である。
証明
$U$ をユニタリ行列とし、
$U$ の固有値を $\lambda$、
固有値ベクトルを $\mathbf{x}_{\lambda}$ とする。
このとき、
複素内積と随伴行列の間に
の関係があること
(
証明は
随伴行列と複素内積の関係を参考
)
と
ユニタリ行列の定義を用いると、
$U \mathbf{x}_{\lambda}$ 同士の内積が、
のように $\mathbf{x}_{\lambda}$ のノルムの二乗に等しいことが分かる。
一方で、
複素内積の性質
( ここで $*$ は複素共役 ) から、
同じ内積が
と表される。
したがって、
が成り立つ。
ここで、
$\mathbf{x}_{\lambda} \neq 0$ により
$
\| \mathbf{x}_{\lambda} \|^{2}\neq 0
$
であるので、
を得る。
これより、
ユニタリ行列の固有値 $\lambda$ は、
を満たす値である。
補足:
$\lambda = r e^{\theta}$ と表すと、$(3)$ から
が示されるので、
固有値 $\lambda$ は、
と表せる数であることが分かる。
同じように、
実はユニタリ行列 $U$ 自体も
と表すことができる
( 証明は
ユニタリ行列はエルミート行列の指数関数を参考 ) 。
ここで $H$ はエルミート行列である。
累乗のユニタリ変換
正方行列 $A$ の累乗のユニタリ変換は、
$A$ のユニタリ変換の累乗に等しい。
すなわち、
が成り立つ。
証明
帰納法によって証明する。
はじめに、明らかに
であるから、
$n=1$ の場合が成り立つ。
続いて、
を仮定する ( $k$ は任意の自然数 ) 。
このとき、
定義から、
が成り立つことが分かるので帰納法により、
任意の自然数 $n$ に対して
が成り立つ。
ユニタリ行列はエルミート行列の指数関数
任意のユニタリ行列 $U$ には、
が成り立つエルミート行列 $H$ が存在する。
ユニタリ変換はトレース不変
正方行列 $A$ のユニタリ変換
$ U^{\dagger} A U $ のトレースは、
もとの行列 $A$ のトレースに等しい。
すなわち、
が成り立つ。
証明
$U$ を
ユニタリ行列とする。
すなわち、
を満たす行列であるとする。
$U$ によって
正方行列 $A$ を
と変換する写像を
ユニタリ変換という。
このとき、
トレースの循環性を用いると、
変換後の行列 $A'$ のトレースに対し、
が成り立つ。
すなわち、
ユニタリ変換前の行列のトレースと、ユニタリ変換後の行列のトレースは等しい。
補足:
このように、変換前のトレースと変換後のトレースが等しい写像を保跡写像(trace-preserving map)といい、
物理学の量子力学において大切な役割を担う。ユニタリ変換はその一つである。
ユニタリ行列 $\Longleftrightarrow$ 内積を不変に保つ
行列 $U$ がユニタリ行列であることと、
内積を不変に保つ変換であることは必要十分条件である。
すなわち、
が成り立つ。
ここで $\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ は、
$U$ が作用する複素ベクトル空間の任意のベクトルである。
証明
「
ユニタリ行列 $\Longrightarrow$ 内積を不変に保つ
」の証明
$U$ をユニタリ行列とし、
$\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ を
$U$ が作用するベクトル空間の任意のベクトルとする。
このとき、
ユニタリ行列の定義と
複素内積と随伴行列の関係から、
が成り立つ。
「
ユニタリ行列 $\Longleftarrow$ 内積を不変に保つ
」の証明
$\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ を
正方行列 $U$ が作用するベクトル空間の任意のベクトルとし、
が成り立つものとする。
左辺は
内積と随伴行列の関係から
と表され、
右辺は単位行列 $I$ を用いて、
と表せるので、
が成り立つ。
これが任意の
$\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ に対して成り立っているので、
である
(
行列の等号の内積による表現を参考)。
これより、
も示されるので (
片側のみで定義できるを参考)、
である。
ユニタリ行列 $\Longleftrightarrow$ ノルムを不変に保つ
行列 $U$ がユニタリ行列であることと、
ノルムを不変に保つ変換であることは必要十分条件である。
すなわち、
が成り立つ。
ここで $\mathbf{x}$ は
$U$ が作用する複素ベクトル空間の任意のベクトルである。
証明
ユニタリ行列 $\Longrightarrow$ ノルムを不変に保つ
$U$ をユニタリ行列とし、
$\mathbf{x}$ を
$U$ が作用するベクトル空間の任意のベクトルとする。
このとき、
ユニタリ行列の定義と
内積と随伴行列の関係から、
が成り立つ。
したがって、
である。
ユニタリ行列 $\Longleftarrow$ ノルムを不変に保つ
$\mathbf{x}$ を
正方行列 $U$ が作用するベクトル空間の任意のベクトルとし、
が成り立つものとする。
この関係が任意のベクトルに対して成り立つことから、
$\mathbf{y}$ を任意のベクトルとしたとき、
$\mathbf{x} + \mathbf{y}$ と $\mathbf{x} - \mathbf{y}$ と $\mathbf{x} - i\mathbf{y}$ と $\mathbf{x} +i \mathbf{y}$ に対しても成り立つ。
すなわち、
が成り立つ。これらより、
$$
\tag{1}
$$
である。
ここで複素数 $a$ に対して、
複素ベクトル空間の内積が
を満たすことを用いると (
内積の定義と性質を参考)、
$(1)$ の左辺は
となる。
同じように $(1)$ の右辺を展開すると、
となる。
したがって、
が成り立つ。
左辺は
内積と随伴行列の関係から
と表され、
右辺は単位行列 $I$ を用いて、
と表せるので、
が成り立つ。
この関係が任意のベクトル
$\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ に対して成り立っているので、
が成り立つ
(
行列の等号の内積による表現を参考)。
これより、
も示されるので (
片側のみで定義できるを参考)、
が成り立つ。
ユニタリ行列の列ベクトルは正規直交基底
正方行列 $U$ がユニタリ行列であるための必要十分条件は、
$U$ の列ベクトルが
正規直交基底を成すことである。
すなわち、
が成立する。
ここで、
$\mathbf{u}_{i}$ は $U$ の列ベクトルであり、
$i,j=1,2,\cdots, n$ である。
証明
準備
ユニタリ行列 $U$ の各成分を
と表し、
$U$ の各列ベクトルを
と表すと、
$U$ は、
と表わされる。
また、
$\mathbf{u}_{i}^{\dagger} \mathbf{u}_{j}$ はベクトル $\mathbf{u}_{i}$ と $\mathbf{u}_{j}$ の間の ( 複素ベクトルの ) 標準内積に等しい。
すなわち、
が成り立つ。
これらを踏まえて以下のように証明を行う。
証明: "ユニタリ行列 $\Longrightarrow$ 列ベクトルが正規直交基底"
$U$ を $n \times n$ のユニタリ行列とする。
上の準備から $U^{\dagger}U$ は、
と表される。
これを用いて
$U^{\dagger}U =I$
を表すと、
が成り立つ。
各成分で見ると、
である。
ここで $\delta_{ij}$ は
クロネッカーのデルタ
であり、
$i,j=1,2,\cdots, n$ である。
このように、
ベクトルの集合
は大きさが $1$ であり、
互いに直交する $n$ 個のベクトルであるので、
$n$ 次元ベクトル空間の
正規直交基底を成す。
証明: "ユニタリ行列 $\Longleftarrow$ 列ベクトルが正規直交基底"
$U$ の列ベクトルが正規直交基底を成すと仮定する。
すなわち、
を仮定する。ここで $i,j=1,2,\cdots,n$ である。
随伴行列の定義と
上の準備から、
$U^{\dagger}U$ の $ij$ 成分 $(U^{\dagger}U)_{ij}$ は、
のように $\mathbf{u}_{i}$ と $\mathbf{u}_{j}$ との標準内積に等しいことが分かるので、
$U^{\dagger}U$ を行列で表すと、
と単位行列に等しいことが分かる。
また、
$U^{\dagger}U=I$ であるならば、 $UU^{\dagger} = I$ であることを行列式を使って証明できる
( 証明は
ユニタリ行列は片側のみで定義可能を参考 )。
ゆえに、
が成立する。
結論:
以上から、正方行列 $U$ がユニタリ行列であることと、
$U$ の列ベクトルが正規直交基底を成すことは、必要十分条件であることが示された。
正規行列の対角化
任意の正規行列 $A$ は、
ユニタリ行列によって対角化可能である。
すなわち、
\begin{eqnarray}
U^{-1} A U = \Lambda
\end{eqnarray}
を満たす対角行列 $\Lambda$ とユニタリ行列 $U$ が存在する。
ユニタリ行列は片側のみで定義可能
正方行列 $U$ が
を満たすとき、
が成立する。
このことから、
ユニタリ行列は
$
U^{\dagger}U=I
$
の条件だけで定義できることが分かる。