内積の定義と幾つかの例

最終更新 2018年 6月23日
実ベクトル空間の内積の定義
  実ベクトル空間 $V$ の任意の二つのベクトル $\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ のペアを実数にする写像
が 次のルール
を満たすとき、 写像 $(\cdot, \cdot)$ を実ベクトル空間上の内積と呼ぶ。 ここで $a$ は実定数である。
例 1   ベクトルのドット積
  $n$ 次元実ベクトル空間のベクトル
実ベクトル空間のドット積
によって写像
を定義すると、 内積のルール $(1)$ $(2)$ $(3)$ を満たす。

証明
  はじめに
であるので、ルール $(1)$ が満たされる。続いて
かつ
であるので、ルール $(2)$ が満たされる。 最後に
であり、
が成り立つので、ルール $(3)$ が満たされる。
  以上から、
は内積である。

具体例:
  二つのベクトル
の内積は、
である。
補足:
  物理学やベクトル解析の分野では、 内積
ドット積とよび、
と表すことがある。
例 2   実行列の内積
  $m \times n$ の実行列
によって写像
実行列の内積
を定義すると、 内積のルール $(1)$ $(2)$ $(3)$ を満たす。 ここで $T$ は転置行列を表し、 $\mathrm{Tr}$ は トレースを表す

証明
  転置行列の諸性質
を用いると、
であるので、ルール $(1)$ が満たされる。 続いて、トレースの線形性から
かつ
であるので、ルール $(2)$ が満たされる。 最後に トレースの定義転置行列の定義から
であり、
が成り立つので、ルール $(3)$ が満たされる。
  以上から、
は内積である。


具体例:
  二つの行列
の内積は、
である。
複素ベクトル空間の内積の定義
  複素ベクトル空間 $V$ の任意の二つのベクトル $\mathbf{u}$ と $\mathbf{v}$ のペアを複素数にする写像
が 次の性質
複素ベクトル空間の内積
を満たすとき、 写像 $(\cdot, \cdot)$ を複素ベクトル空間上の内積と呼ぶ。 ここで $*$ は複素共役を表す。
補足:
  当サイトでは一部の工学や物理学にならって内積の線形性を
と定義したが、数学では通常
と定義される。
例 1   複素ベクトルのドット積
  $n$ 次元複素ベクトル空間のベクトル
によって写像
複素ベクトルのドット積
を定義すると、 内積のルール $(1)$ $(2)$ $(3)$ を満たす。

証明
    はじめに .
であるので、ルール $(1)$ が満たされる。続いて
かつ
であるので、ルール $(2)$ が満たされる。 最後に
であり、
が成り立つので、ルール $(3)$ が満たされる。
  以上から、
は複素ベクトル空間上の内積である。

具体例:
  二つの複素ベクトル
の内積は、
である。
例 2   複素行列の内積
  $m \times n$ の複素行列
によって写像
複素行列の内積
を定義すると、 内積のルール $(1)$ $(2)$ $(3)$ を満たす。 ここで $\dagger$ は随伴行列を表し、 $\mathrm{Tr}$ は行列のトレースを表す。

証明
  随伴行列の諸性質
を用いると、
であるので、ルール $(1)$ が満たされる。 続いて、トレースの線形性から
であるので、ルール $(2)$ が満たされる。 最後に トレースの定義随伴行列の定義から
であり、
が成り立つので、ルール $(3)$ が満たされる。
  以上から、
複素行列の内積
は内積である。

補足:
  上のように複素行列によって
複素行列の内積
と定義される内積をヒルベルト・シュミット内積という。 一般的には行列だけでなく、 あるクラスの作用素 (無限次元も含む) に対して定義される。
複素内積の反線形性
  複素ベクトルの内積は、右側のベクトルについては
と線形であるが、 左側のベクトルについては
複素内積の反線形性
と反線形である。

証明
  内積のルール (1) (2) (3) から
である。

シュワルツの不等式
  複素ベクトル空間 $V$ の任意の二つのベクトル $\mathbf{u}$ と $\mathbf{v}$ に対して、 \begin{eqnarray} (\mathbf{u}, \mathbf{v}) \leq \left\| \mathbf{u} \right\| \hspace{1mm} \left\| \mathbf{v} \right\| \end{eqnarray} が成り立つ。 ここで $ \| \cdot \| $ はノルム \begin{eqnarray} \left\| \mathbf{u} \right\| = (\mathbf{u}, \mathbf{u})^{\frac{1}{2}} \end{eqnarray} である。
実内積と転置行列
  $\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ をそれぞれ $m$ 次と $n$ 次の実ベクトルとし、 $A$ を任意の $m \times n$ の実行列とするとき、 \begin{eqnarray} (\mathbf{x}, A \mathbf{y}) = (A^{T} \mathbf{x}, \mathbf{y}) \end{eqnarray} が成り立つ。
  ここで、 $A^{T}$ は $A$ の転置行列である。
複素内積と随伴行列
  $\mathbf{u}$ と $\mathbf{v}$ をそれぞれ $m$ 次と $n$ 次の複素ベクトルとし、 $U$ を任意の $m \times n$ の複素行列とするとき、 \begin{eqnarray} (\mathbf{u}, U \mathbf{v}) = (U^{\dagger} \mathbf{u}, \mathbf{v}) \end{eqnarray} が成り立つ。
  ここで、 $U^{\dagger}$ は $U$ の随伴行列である。