上三角行列/下三角行列の性質
上三角行列
$n \times n $ の正方行列 $A$ の各成分を $a_{ij}$ と表すとき、
を満たす行列を
上三角行列という。
行列で表すと、対角成分よりも下側の成分が $0$ である次のような形行列になる。
具体例: (上三角)
以下の行列は上三角行列である。
以下の行列は上三角行列ではない。
下三角行列
$n \times n $ の正方行列 $A$ の各成分を $a_{ij}$ と表すとき、
を満たす行列を
下三角行列という。
行列で表すと、対角成分よりも上側の成分が $0$ である次のような形行列になる。
具体例: (下三角)
以下の行列は下三角行列である。
以下の行列は下三角行列ではない。
上三角行列の積
上三角行列同士の積は上三角行列になる。
しかも対角成分が個々の上三角行列の対角成分の積になる。
すなわち、
のとき、
の形の行列になる。
証明
行列 $A$ と $B$ を
上三角行列とする。
行列 $AB$ の $i$ 行 $j$ 列成分 $AB_{ij}$ は、
行列の積の定義から
であるが、
$A$ が
上三角行列であるので、
であり、
$B$ も
上三角行列であるので、
である。
ゆえに、$ i>j $ の場合に
であるので、
$AB$ もまた
上三角行列である。
同じように
と表すと、
$A$ が
上三角行列であるので、
であり、
$B$ も
上三角行列であるので、
であるので、
である。
したがって、
$A$ と $B$ が上三角行列のとき、
$AB$ の対角成分は
$A$ の対角成分と $B$ の対角成分の積に等しい。
下三角行列の積
下三角行列同士の積は下三角行列になる。
しかも対角成分が個々の下三角行列の対角成分の積になる。
すなわち、
のとき、
の形の行列になる。
証明
行列 $A$ と $B$ を
下三角行列とする。
行列 $AB$ の $i$ 行 $j$ 列成分 $AB_{ij}$ は、
行列の積の定義から
であるが、
$B$ が
下三角行列であるので、
であり、
$A$ も
下三角行列であるので、
である。ゆえに $ i \lt j $ の場合に、
であるので、
$AB$ は
下三角行列である。
同じように
と表すと、
$A$ が
下三角行列であるので、
であり、
$B$ も
下三角行列であるので、
であるので、
である。
したがって、
$A$ と $B$ が下三角行列のとき、
$AB$ の対角成分は
$A$ の対角成分と $B$ の対角成分の積に等しい。
上三角行列の行列式
上三角行列の行列式は対角成分の積に等しい。すなわち
が成り立つ。
下三角行列の行列式
下三角行列の行列式は対角成分の積に等しい。すなわち
が成り立つ。
証明
$A$ を $n \times n$ の下三角行列
とする。
転置行列の行列式の性質から、
が成立する。
右辺は、
上三角行列の行列式であるので、
対角成分の積に等しい。
よって、
である 。
以上から、
を得る。
すなわち、
下三角行列 $A$ の行列式は対角成分の積に等しい。
上三角行列の逆行列
上三角行列
の逆行列 $A^{-1}$ は、
対角成分が $A$ の対角成分の逆数に等しい上三角行列である。
すなわち、
の形をした行列である。
証明
$A$ の
余因子行列を $\tilde{A}$ とすると、
$A$ の逆行列 $A^{-1}$
は余因子行列を行列式で割ったものに等しい。
すなわち、
$$
\tag{1}
$$
が成り立つ (証明は
余因子行列と行列式の関係を参考)。
余因子行列の $i$ 行 $j$ 列成分 $\tilde{A}_{ij}$ は
$$
\tag{2}
$$
と定義される。
ここで、$M_{ji}$ は
行列 $A$ から $j$ 行と $i$ 列を取り除いた小行列
であり、$|M_{ji}|$ は $M_{ji}$ の
行列式である
($(2)$ では $a_{ij}$ と $|M_{ji}|$ の添え字が逆になっていることに注意)。
行列 $A$ が
上三角行列である場合に、
余因子行列 $\tilde{A}$ の下三角の部分を考える。
すなわち、$i > j$ の場合の $\tilde{A}_{ij}$ を考える。
$\tilde{A}_{ij}$ は $A$ から $j$ 行と $i$ 列を取り除いた小行列
$ M_{ji} $ によって $(2)$ のように定義されるが、
$A$ が上三角行列
である場合には、
$ M_{ji} $ は対角成分に 必ず $0$ が現れる次のような形の上三角行列になる。
四角で囲った部分が
値が $0$ の対角成分である。
このことは、$5$ 行 $5$ 列などの例で確かめると分かり易い。
例えば 以下の上三角行列
から $2$ 行 と $4$ 列を取り除いた小行列 $M_{24}$ は、
であり、
対角成分に $0$ が現れる上三角行列になる。
このように、
行列 $A$ が上三角行列であり、
なおかつ
$i > j$ の場合には、
小行列 $M_{ji}$ が $0$ の対角成分を持つ上三角行列になる。
したがって、
上三角行列の行列式の性質から、
$M_{ji}$ の行列式は、
である。ここで
$M_{ji}$ の対角成分を $(M_{ji})_{kk}$ のように表し、
その中のどれかが $0$ であることを用いた。
これと $(2)$ から
であるので、
$(1)$ から、
である。
ここで $A^{-1}$ の $i$ 行 $j$ 列成分を $(A^{-1})_{ij}$ と表した。
以上から、
$A$ が上三角行列である場合、
$A$ の逆行列 $A^{-1}$ の下三角部分にある成分
($i>j$ の成分)は $0$ であること示された。
ゆえに、
$A^{-1}$ は上三角行列である。
そこで $A^{-1}$ を
と置くと、
上三角行列の積の性質から、
であるので、対角成分において
が成り立つ。
これより、$A^{-1}$ は
と表される行列である。
すなわち、$A^{-1}$ は対角成分が $A$ の対角成分の逆数に等しい上三角行列である。
下三角行列の逆行列
下三角行列
の逆行列 $A^{-1}$ は、
対角成分が $A$ の対角成分の逆数に等しい下三角行列である。
すなわち、
の形をした行列である。
上三角行列の固有値
上三角行列
の固有値 $\lambda$ は $A$ の対角成分のいずれかに等しい。
証明
$A$ の固有値を $\lambda$ とすると、
$\lambda$ は固有方程式
$$
\tag{1}
$$
の解である。
ここで $\lambda I - A$ は
の形をした上三角行列であるので、
上三角行列の行列式の性質により、
である。これより
$(1)$ は
と表されるので、
である。すなわち、上三角行列 $A$ の固有値は $A$ の対角成分のいずれかである。
下三角行列の固有値
下三角行列
の固有値 $\lambda$ は、
$A$ の対角成分のいずれかに等しい。