極分解
任意の実正方行列 $M$ は、直交行列 $U$ と半正定値行列 $P$ に分解することができる。 すなわち、
このように、右側に半正定値行列が来るように分解する場合を右極分解と呼ぶ。 一方で、下式のように半正定値行列が左側に来るように分解することもできる。すなわち、

最終更新 2017 年 10月1日
右極分解の証明
行列 $M$ を $n$ 次実正方行列とすると、行列 $M^{T}M$ は、 転置行列の積の性質により、 $$ (M^{T} M)^{T} = M^{T} M $$ を満たすので、実対称行列である。 実対称行列は、正規行列の一種であるので、$M^{T} M$ は、正規行列である。一般に、 正規行列の固有ベクトルによって、 完全正規直交系を構成することができるので、そのように構成した $M^{T} M$ の固有ベクトルを $\{ \mathbf{m}_{1}, \mathbf{m}_{2}, \cdots \mathbf{m}_{n} \}$ とすると、

固有値 $\lambda_{i}$ は、$(1)$ により、


そこで、固有値を正のものと、$0$ のものに分けて、

このとき、$i=r+1,r+2,\cdots,n$ に対して、


$\{\mathbf{m}_{i}\}$ が完全正規直交系をなすことから、単位行列 $I$ を



また $i=1,2,\cdots, r$ に対して、ベクトル $\mathbf{u}_{i}$ を


$(1)$ により、$\mathbf{u}_{i}$ は


$(6)$ は、互いに直交するので、互いに線形独立なベクトルである。 従って、$(6)$ の線形結合は、$n$ 次元ベクトル空間の中の $r$ 次元の部分空間を構成する。 一般に、ベクトル空間には、部分空間の正規直交系を含む完全正規直交系が存在するので、 $(6)$ を含むように完全正規直交系を構成することができる。 すなわち、$(6)$ に $n-r$ 個のベクトル


$ i= r+1,\cdots,n $ に対して、 $ \lambda_{i} = 0 $ であることから、$(5)$ で表した行列 $M$ を、$(7)$ を用いて表すことができる。すなわち、

また、$(1)$ によって、行列 $M$ は

ここで、行列 $U$ と $P$ を


このように現れた行列 $P$ は、任意のベクトル $\mathbf{r}$ に対して、

一方、行列 $U$ は、直交行列である。それは、次のように証明される。$U^{T}$ との積をとると、




ゆえに、

以上より、任意の正方行列 $M$ は、直交行列 $U$ と半正定値行列 $P$ の積によって

左極分解の証明
上の議論と $(8)$ から、行列 $M$ を
ここで、行列 $P'$ を


ここで行列 $P'$ は、任意のベクトル $\mathbf{r}$ に対して、

$U$ は直交行列であるので、次の結論を得る。すなわち、任意の正方行列 $M$ は、半正定値行列 $P'$ と 、直交行列 $U$ との積によって
