証明
$A$ を $n \times n$ の正方行列とし、
数学的帰納法を用いて証明する。
$n=2$ の場合を考える。
すなわち、任意の $2 \times 2$ の正方行列 $A$ が三角化可能であることを証明する。
$A$ の固有値の一つを $\lambda_{1}$ とし、
固有ベクトルを $\mathbf{p}_{1}$ と表す。
$$
\tag{1}
$$
一般に
任意のベクトルを含む基底が存在するので、
$A$ の作用する $2$ 次元ベクトル空間には $\mathbf{p}_{1}$ を含む
基底が存在する。
それを
$\{\mathbf{p}_{1}, \mathbf{p}_{2} \}$ と表すと、
$ \mathbf{p}_{1}$ と $\mathbf{p}_{2}$ が線形独立であることから、
これらを列ベクトルとして持つ
$2 \times 2$ の行列
は、
正則行列である
(
正則行列$\Longleftrightarrow$列が線形独立を参考)。
したがって、
$P$ には逆行列 $P^{-1}$ が存在する。
$P^{-1}$ の行ベクトルを $ \mathbf{c}_{1}, \mathbf{c}_{2}$ とすると、
と表されるが、
$P^{-1}P=I$ ($I$ は単位行列) であることから、
であるので、
$$
\tag{2}
$$
が成り立つ。ここで、$\delta_{ij}$ は
クロネッカーのデルタである。
以上の $(1)$ と $(2)$ から
$$
\tag{3}
$$
が成り立つ。
ところで、
行列の積の行列式の性質を用いると、
であり、
$A$ の固有値を $\lambda$ と表すと、
$\lambda$ は固有方程式
の解である。
これらから、
が成り立つが、
この式は $(3)$ を用いると、
と表される。
左辺は
$2 \times 2$ の行列の行列式 であるので、
を得る。
これより、
である。すなわち、$A$ の固有値は $\lambda_{1}$ と $\mathbf{c}_{2} A \mathbf{p}_{2}$ である。
したがって、
$(3)$ 式の右辺の対角成分はともに $A$ の固有値である。
そこで、
と定義すると以下の結論を得る。
すなわち、
任意の $2 \times 2$ の行列 $A$ には、
を満たす正則行列 $P$ と
対角成分が $A$ の固有値に等しい上三角行列 $\Lambda$ が存在する。
続いて $(k-1) \times (k-1)$ の任意の正方行列が三角化可能であることを仮定し、
$k \times k$ の任意の正方行列が三角化可能であることを証明する
(以下では、便宜上 $n=2$の場合のこれまでの議論と同じ記号($A$ や $P$ など)を用いる)。
任意の $k \times k$ の正方行列 $A$ の固有値の一つを $\lambda_{1}$ とし、
固有ベクトルを $\mathbf{p}_{1}$ と表す。
$$
\tag{4}
$$
一般に
任意のベクトルを含む基底が存在するので、
$A$ の作用する $k$ 次元ベクトル空間には
$\mathbf{p}_{1}$ を含む
基底が存在する。
それを
$\{\mathbf{p}_{1}, \mathbf{p}_{2}, \cdots, \mathbf{p}_{k} \}$ と表すと、
これらは互いに線形独立であるので、
これらを列ベクトルとして持つ
$k \times k$ の行列
は、
正則行列である
(
正則行列$\Longleftrightarrow$列が線形独立を参考)。
したがって、
$P$ には逆行列 $P^{-1}$ が存在する。
$P^{-1}$ の行ベクトルを $ \mathbf{c}_{1}, \mathbf{c}_{2}, \cdots, \mathbf{c}_{k}$ とすると、
と表されるが、
$P^{-1}_{k}P_{k}=I$ ($I$ は単位行列) であることから、
であるので、
$$
\tag{5}
$$
が成り立つ。
ここで、$\delta_{ij}$ は
クロネッカーのデルタである。
以上の $(4)$ と $(5)$ から
$$
\tag{6}
$$
が成り立つ。
ここで右辺の右下部分の $(k-1) \times (k-1)$ 行列を
とすると、$(6)$ は
$$
\tag{7}
$$
と表される。ここで点線は見易くするための便宜上のものに過ぎない。また $*$ はどんな値であってもよいことを表している。
帰納法の仮定より $\overline{A}_{k-1}$ には
$$
\tag{8}
$$
を満たす正則行列
$\overline{P}_{k-1}$ と上三角行列
$\overline{\Lambda}_{k-1} $ が存在する。
$\overline{P}_{k-1}$ を用いて $k \times k$ 行列 $\tilde{P}_{k}$ を
$$
\tag{9}
$$
と定義すると、
$\tilde{P}_{k}$ には逆行列
$$
\tag{10}
$$
が存在する ($ \tilde{P}_{k}^{-1} \tilde{P}_{k} = \tilde{P}_{k} \tilde{P}_{k}^{-1} = I$ が成り立つ)。
以上の $(7)$ $(8)$ $(9)$ $(10)$ により、
$$
\tag{11}
$$
が成り立つ。
ここで、右辺に現れた行列を
と定義し、$P_{k}$ を
と定義すると、
$(11)$ は、
と表される。
$ \overline{\Lambda}_{k-1} $ が $(k-1) \times (k-1)$ 次の
上三角行列であることから、
$\Lambda_{k} $ は $k \times k$ の上三角行列である。
一方で、$P'_{k}$ と $\tilde{P}_{k}$ が正則行列であることから、
$P_{k}$ もまた正則行列である (
逆行列の積を参考)。
したがって、
上式は $A_{k}$ が正則行列によって三角化可能であることを表す式である。
以上のように、
$(k-1) \times (k-1)$ の任意の行列が三角化可能であることを仮定し、
$k \times k$ の任意の行列 が三角化可能であることが示されたので、
帰納法により、任意の $n \times n$ の行列 $A$ は三角化可能である。
すなわち、
$$
\tag{12}
$$
を満たす
上三角行列
$\Lambda$ と
正則行列 $P$ が存在する。
最後に、
三角化された行列の対角成分がもとの行列 $A$ の固有値であることを証明する。
$\Lambda$ は
上三角行列であるので、
$$
\tag{13}
$$
と置く。
$P$ は正則行列であるので、
行列の積の行列式の性質を用いると、
が成り立つ。
$A$ の固有値を $\lambda$ と表すと、
$\lambda$ は固有方程式
の解である。
$(12)$ とこれらから、
が成り立つ。
上式は $(13)$ を用いると、
と表される。
上三角行列の行列式が対角行列の積に等しいことを用いると、
\begin{eqnarray}
(\lambda - \lambda_{1} )
(\lambda - l_{2}) \cdots (\lambda - l_{n}) = 0
\end{eqnarray}
である。
これより、
\begin{eqnarray}
\lambda = \lambda_{1}, \hspace{1mm} l_{2}, \cdots, l_{n}
\end{eqnarray}
である。すなわち、$A$ を三角化した行列 $\Lambda$ の対角成分は $A$ の固有値に等しい。