ネイピア数とは?
定義と収束
ネイピア数
(Napier's constant)
$e$
は
と定義される。
オイラー数
(Euler's number)
と呼ばれることもある。
以下では、
右辺の極限が収束することを証明する。
証明
数列
$a_{n}$
を
と定義する。
$a_{n}$ が
有界な単調増加数列であることを証明する。
単調増加性
二項定理を用いると、
が成り立つので、
$a_{n}$
は単調増加数列である。
有界性
二項定理を用いると、
と表されることから分かるように、
$$
\tag{1.1}
$$
である。
また、
等比数列の和の公式を用いると、
$$
\tag{1.2}
$$
が成り立つ。
$(1.1)$
$(1.2)$
より、
であるので、$a_{n}$は有界である。
結論
以上から、$a_{n}$
は有界な単調増加数列であるので収束する
(実数の連続性の公理)。
$e$ の意味: 連続複利
ネイピア数
を理解するための著名な例の連続複利の問題を解説する。
証明
1年間で100%の利息を受け取る口座に $A$ 円を預けたとする。
1年後の預金額を $D_{1}$ とすると、
$$
\tag{2.1}
$$
である。
預金額は $2$ 倍になる。
続いて、利息は $\frac{1}{2}$ になるが、
半年ごとに
($\frac{1}{2}$ 年ごとに)
利息を受け取れる口座に $A$ 円を預けたとする。
このとき、半年後には預金額が
になる。
これを元金として、さらに半年後にもう一度利息を受け取れる。
したがって、
預金を始めてから1年後の預金額を $D_{\frac{1}{2}}$ とすると、
$$
\tag{2.2}
$$
である。預金額は $2.25$ 倍になり、$D_{1}$ よりも増える。
続いて、利息は $\frac{1}{3} $ とさらに減少するが、
4か月ごとに
($\frac{1}{3}$ 年ごとに)
3回利息を受け取れる口座に $A$ 円を預けたとする。
この口座では
4か月後に預金額が
になる。
これを元金として、さらに4か月後にもう一度利息を受け取れる。
預金を始めてから8か月後には預金額が
になる。
これを元金として、さらに4か月後に最後の利息を受け取れる。
この口座での1年後の預金額を
$D_{\frac{1}{3}}$
とすると、
$$
\tag{2.3}
$$
になる。預金額は約 $2.3703$ 倍になり、
$D_{2}$ よりも増える。
このように、
1年後の預金額は受け取り期間を短くすればすれほど増えてゆくが、
どこまで増加するであろうか。
それを見るために、今まで議論を一般化し、
利息 $\frac{1}{n} $ を
$n$ 回受け取れる口座に $A$ 円を預けたとする。
$1$ 年後の預金額 $D_{\frac{1}{n}}$
は
$(2.1)$
$(2.2)$
$(2.3)$
から推測できるように、
である。例えば
毎日利息を受け取る場合には
($n=365$ の場合には)、
となる。
さらに
$n$ を大きくするときに、
最終的にどの値になるかを求めることは、
$n \rightarrow +\infty$ の極限を求めることに相当する。
すなわち、
を求めることに相当する。
右辺の極限はネイピア数そのものである。
上で示したように
この極限は
収束する。
これは、
預金額の増加には限界があることを意味している。
その限界値が $e$ であり、
という値になる。
このようにネイピア数は、
利息を低くしながら利息を受け取る間隔短くしていった場合に、
どこまでの預金額を最終的に増額できるのかの限界値を表す。
このような問題は、
連続複利と呼ばれ、
金融理論の基礎問題の一つである。
級数による表現
ネイピア数は、
という級数によって表すことができる
証明
二項定理により、
と表される。
これより、
$$
\tag{3.1}
$$
が成り立つ。
$x=1$ の場合を考えることにより、
を得る。
補足
解析学では $(3.1)$ が指数関数 $e^{x}$ の定義として用いられる。
$e$ は無理数
$e$ は無理数であることを背理法によって証明する。
証明
$e$ が有理数であり、
二つの正の整数 $j$ と $k$ によって、
$$
\tag{4.1}
$$
と表せると仮定する。
$k$ とネイピア数を用いて
$p$ を
$$
\tag{4.2}
$$
を定義する。
はじめに $p$ が整数であることを示す。
$(4.1)$ $(4.2)$ より
である。
ここで、第一項の $ j(k-1)!$ は整数である。
また、第二項は総和は
と表せることから分かるように、どの項も整数である。
ゆえに $p$ は整数である。
続いて $p \gt 1$ を示す。
$(4.2)$ に
$e$ の級数による表現を代入すると、
$$
\tag{4.3}
$$
と表せる。
$k$ は正の整数であるから、
$p \gt 1$ である。
続いて $p \lt 2$ を示す。
$(4.3)$
より、
が成り立つ。
最後の等号では
$n-k=m$ と置いた。
等比級数の公式を用いると、
$\frac{1}{k+1} \lt 1$ であることから、
と表せるので、
である。
以上から、
という矛盾した結論を得る。したがって、
背理法により、
$p$ が有理数であるという仮定が誤っていると結論づけられる。
ゆえに、
$p$
は無理数である。
幾つかの表現
ネイピア数 $e$ は、
数列 $ \left( 1 + \frac{1}{n} \right)^{n} $ の極限によって定義されるが、
実関数 $f(x) = \left( 1 + \frac{1}{x} \right)^{x}$ の極限を用いて表しても良い。
すなわち、
$$
\tag{5.1}
$$
が成り立つ。
また、
\begin{eqnarray}
e = \lim_{t \rightarrow 0}(1+t)^{\frac{1}{t}}
\end{eqnarray}
$$
\tag{5.2}
$$
と表すこともできる。
● $(5.1)$ の証明
数列
$\left( 1+ \frac{1}{n+1} \right)^{n}$ の極限は、
ネイピア数 $e$ に等しいことが次のように示される。
ここで、
数列の積の極限が極限の積に等しいことを用いた。
また、
最後の等号では $m=n+1$ と置いた。
これより、
任意の正の数 $\epsilon$ に対して、
を満たす自然数 $N_{1}$ が存在する。
同じように、
数列
$\left( 1+ \frac{1}{n} \right)^{n+1}$ の極限は、
ネイピア数 $e$ に等しいことが次のように示される。
ここで、
2行目と3行目が等しいことを示すときに、
数列の積の極限が極限の積に等しいことを用いた。
これより、
任意の正の数 $\epsilon$ に対して、
を満たす自然数 $N_{2}$ が存在する。
従って、
を満たす自然数を $N$ とすると、
$$
\tag{5.3}
$$
が成り立つ。
このような $N$ に対し、
$
N+1 \lt x
$
を満たす任意の実数を $x$ とする。
$x$ には、
$$
\tag{5.4}
$$
を満たす自然数 $n$
が存在する。
$(5.4)$ から
が成り立つ。
これより、
が成り立つので、
関数
$
\left|
\left( 1+ \frac{1}{x} \right)^{x} -e
\right|
$ は、
不等式
を満たすか、
不等式
を満たすかのどちらかであるが、
いずれの場合であっても、
$(5.3)$ から
$$
\tag{5.5}
$$
が成り立つ。
以上の $(5.4)$ と $(5.5)$ から、
任意の正の数 $\epsilon$ に対して、
が成り立つ整数 $N$ が存在することが示された。
したがって、
が成り立つ実数 $x'$ 存在する
($ x \gt x' \gt N+1$ を満たす実数 $x'$ )
。
したがって、
を得る。
● $(5.2)$ の証明
$\frac{1}{t}=n$ とすると、
$t \rightarrow 0$
ならば
$n \rightarrow \infty$
なので、
が成り立つ。
$\Big(1-\frac{1}{n} \Big)^{n} \rightarrow \frac{1}{e}$
次の関係
が成り立つ。