数列の和の極限・積の極限・商の極限
最終更新 2019年 1月12日
数列の極限とは
数列の極限を表す記号
とは、次の命題が成り立つことを表している。
すなわち、
任意の正の数 $\epsilon$ に対して、
ある整数 $N$ が存在し、
その $N$ よりも大きな全ての整数 $n$ に対して、
$$
\tag{1}
$$
が成り立つ (下図)。
$\epsilon$ は任意の正の数であるので、
$(1)$ の幅は幾らでも小さく考えてもよい。
そういう意味で数列の極限は次のように解釈できる。
すなわち、数列 $a_{n}$ は $n$ を大きくしてゆくと、
$\alpha$ を中心とするどんな小さな幅の中にも収まってしまう。
$(1)$ を書き直すと、
であるので、
この極限の定義を論理記号を用いて、
と表すことができる。
ここで $\forall$ は「任意の」を表し、$\exists$ は「存在する」を表す。
また、$\mathbb{N}$ は整数を表す。
この性質を満たす $\alpha$ を数列 $a_{n}$ の
極限(値)という。
和の極限
数列の和の極限は、それぞれの極限値の和に等しい。
すなわち、
が成り立つ。
証明
はじめに
であるとすると、
極限の定義より
任意の正の $\epsilon_{a}$ と $\epsilon_{b}$ に対して、
ある整数 $N_{a}$ と $N_{b}$ が存在し、
$n > N_{a}$ であるならば、
$$
\tag{1}
$$
が成り立ち、
$n > N_{b}$ であるならば、
$$
\tag{2}
$$
が成り立つ。
したがって、
と $N$ を定義すると、
$n > N$ であるならば、
$n > N_{a}$ かつ $n > N_{b}$ であるので、
$(1)$ と $(2)$ と
三角不等式により、
$$
\tag{3}
$$
が成り立つ。
ここで
$\epsilon_{a}$ と $\epsilon_{b}$ は任意の正の数であるので、
$(3)$ は
$$
\tag{4}
$$
の場合でも成り立つ。ここで
$\epsilon$ は任意の正の数である。
ゆえに、
$n>N$ であるならば、
$(3)$ が成り立ち、
$(4)$ を用いると、
任意の正の数 $\epsilon$ に対して
が成り立つ($N$ が存在する )。
したがって
である。
補題1
であるならば、
全ての $n$ に対して
を満たす数 $M$ が存在する。
証明
極限の定義より
であるならば、
任意の正の $\epsilon$ に対して、
ある整数 $N$ が存在し、
$n > N$ である全ての $n$ に対して
が成り立つ。これより、
であるので、
と $M'$ を定義すると、$n > N$ の場合には、
が成り立つ。
一方で、$n \leq N$ の場合には成り立つとは限らない。
そこで、$n \leq N$ の場合の $|a_{n}|$ に
$M'$ を含めた集合の最大値を $M$ と定義すると、
すなわち、
とすると、$M$ は $n \leq N$ の場合の $|a_{n}|$ 以上であり、
なおかつ、$n > N$ の場合の $|a_{n}|$ よりも大きな数になる。
したがって、$M$ は全ての $n$ に対して、
を満たす数である。
ゆえに、このような $M$ が存在する。
積の極限
数列の積の極限は、それぞれの極限値の積に等しい。
すなわち、
が成り立つ。
証明
とすると、
極限の定義より
任意の正の $\epsilon_{a}$ と $\epsilon_{b}$ に対して、
ある整数 $N_{a}$ と $N_{b}$ が存在し、
$n > N_{a}$ であるならば、
$$
\tag{1}
$$
が成り立ち、
$n > N_{b}$ であるならば、
$$
\tag{2}
$$
が成り立つ。
また
補題1より、すべての $n$ に対して
$$
\tag{3}
$$
を満たす $M$ が存在する。
したがって、
と $N$ を定義すると、
$n > N$ であるならば、
$n > N_{a}$ かつ $n > N_{b}$ であるので、
$(1)$ $(2)$ $(3)$ と
三角不等式により、
$$
\tag{4}
$$
が成り立つ。
$\epsilon_{a}$ と $\epsilon_{b}$ は任意の正の数であるので、
$(4)$ は
$$
\tag{5}
$$
の場合でも成り立つ。
ここで
$\epsilon$ は任意の正の数である ( ここで $\beta\neq 0$ としたが、
$\beta=0$ の場合には $\epsilon_{b}$ を任意の正の値とする)。
ゆえに、
$n>N$ であるならば、
$(4)$ が成り立ち、
$(5)$ を用いると、
任意の正の数 $\epsilon$ に対して
が成り立つ ( $N$ が存在する )。
よって、
である。
補題2
であるならば、
全ての $n$ に対して
を満たす数 $L$ が存在する。
証明
極限の定義より
であるならば、
任意の正の $\epsilon$ に対して、
$n > N$ であるならば、
が成り立つ整数 $N$ が存在する。これより、
が成り立つので、
$L' = \min[ |\alpha + \epsilon|, |\alpha - \epsilon| ] $ と定義すると、
が $n > N$ の場合に成り立つ。
一方で、$n \leq N$ の場合には成り立つとは限らない。
そこで、$n \leq N$ の場合の $|a_{n}|$ に
$L'$ を含めた集合の最小値を $L$ と定義すると、
すなわち、
とすると、$L$ は $n \leq N$ の場合の $|a_{n}|$ 以下であり、
なおかつ、$n > N$ の場合の $|a_{n}|$ よりも小さい数になる。
したがって、$L$ は全ての $n$ に対して、
を満たす数である。
よって、このような $L$ が存在することが示された。
商の極限
数列の商の極限は、それぞれの極限値の商に等しい。
すなわち、
が成り立つ。
ただし、$\beta \neq 0$ とする。
証明
$\beta \neq 0$ に対して、
とすると、
極限の定義より
任意の正の $\epsilon_{b}$ に対して、
ある整数 $N_{b}$ が存在し、、
$n > N_{b}$ であるならば、
$$
\tag{1}
$$
が成り立つ。
また
補題2より、すべての $n$ に対して
$$
\tag{2}
$$
を満たす $L$ が存在する。
これらを踏まえて初めに
を証明する。
$n >N_{b}$ を満たす $n$ には、
$(1)$ と $(2)$ より、
$$
\tag{3}
$$
が成り立つ。
$\epsilon_{b}$ は任意の正の数であるので、
$$
\tag{4}
$$
の場合でも $(3)$ は成り立つ。ここで $\epsilon$ は任意の正の数である。
ゆえに、 $n>N_{b}$ であるならば、
$(3)$ が成り立ち、 $(4)$ を用いると、
任意の正の数 $\epsilon$ に対して
が成り立つ。よって、
$$
\tag{5}
$$
である。
続いて
を証明する。
$(5)$ において
$\frac{1}{b_{n}} = c_{n}$ とすると、
である。
ここで
が成り立つとすると、
数列の積の極限の性質より、
である。
$\frac{1}{b_{n}} = c_{n}$ であったので、
である。
大小関係がある場合の極限
数列 $\{ a_{n} \}$ と $\{ b_{n} \}$ に大小関係
があり、ともに収束する数列であるならば、
極限値にも同じ大小関係が成り立つ。
すなわち、
が成り立つ。
証明
数列の和の極限が極限値の和に等しいことから、
が成り立つが
と置き、$c < 0$ と仮定すると、
極限の定義から、
任意の正の数 $\epsilon$ に対して、
$n > N$ を満たす全ての $n$ に対して、
$$
\tag{1}
$$
が成り立つ整数 $N$ が存在する。
$c < 0$ であるので、
$$
\tag{2}
$$
を満たすほど小さな正の数 $ \epsilon'$ が存在するが、
このような $\epsilon'$
に対しても $(1)$ は成り立つ。
すなわち、
$(2)$ を満たす正の数 $\epsilon'$ に対して、
$n > N'$ を満たす全ての $n$ に対して、
が成り立つ整数 $N'$ が存在する。
このとき、
であるが、
これは
$
a_{n}\leq b_{n}
$
と矛盾する。
ゆえに
$c \geq 0$ である。これより、
が成り立つので、
である。