恒等写像と合成写像
恒等写像
集合 $X$
の元 $x$
に、
$x$ そのものを対応づける
写像を
$I_{X}$
とする。
すなわち、
とする。これを
恒等写像 (identity map) という。
恒等写像の例
$(1)$
$\mathbf{R}$ を実数全体の集合とする。
$\mathbf{R}$
の元
$x$
を $x$ にする写像
は
$\mathbf{R}$
上の
恒等写像である。
$(2)$
$M_{2}$
を
$2 \times 2$ の実行列全体の集合とする。
$M_{2}$ の元
$m_{2}$ を
$m_{2}$ にする写像
は $M_{2}$ 上の
恒等写像である。
補足
$(1)$
任意の実数 $x$ に対して、
$1$ を掛けても値は変わらない。
したがって、写像
は、$\mathbf{R}$
上の
恒等写像である。
$(2)$
任意の $2 \times 2 $ 行列
に対して、
$2 \times 2 $ の
単位行列
をどちらから掛けても変化しない。
すなわち、
が成り立つので、
写像
は、$M_{2}$
上の
恒等写像である。
恒等写像は全単射
恒等写像は
全単射である。
証明
集合 $X$ に対する
恒等写像
の
像
$\mathrm{Im}\hspace{0.5mm} I_{X}$ は、
明らかに $X$ そのものであるので、
すなわち、
であるので、
$I_{X}$
は
全射である。
また、
$x, x' \in X$ に対して、
が成り立つので、
対偶を考えると、
が成り立つ。ゆえに、
$I_{X}$
は
単射である。
以上から $I_{X}$
は、
全射かつ単射であるので、全単射である。
合成写像
集合
$X$ から集合 $Y$ への写像を $f$ とし、
$Y$ から集合 $Z$ への写像を $g$ とする。
すなわち、
とする。
このとき、
$X$ から $Z$ への写像で、$x $ を $g (f(x)) $ にする写像を
$f$
と
$g$
との
合成写像といい、
$g \circ f$ と表す。
すなわち、
である。
合成写像の例
$(1)$
$\mathbf{R}$ を実数全体の集合とする。
写像 $f$ と $g$
を
と定義する。
合成写像
$g \circ f$
は
である。
$(2)$
$\mathbf{C}$ を
複素数全体の集合とする。
$M_{2} (\mathbf{C})$ を
$2 \times 2$ の複素行列全体の集合とする。
写像 $f$ と $g$
を
と定義する。
合成写像
$g \circ f$
は
である。
性質
集合
$X$ から
集合
$Y$ への
写像 $f$ と、
$X$ 上の
恒等写像 $I_{X}$
と、
$Y$ 上の
恒等写像 $I_{Y}$
に対して、
が成り立つ。
すなわち、
ある写像と恒等写像から成る
合成写像は、もとの写像に等しい。
証明
恒等写像の定義から
任意の $x \in X$ に対して、
が成り立つので、
である。同じように、
が成り立つので、
である。