全微分と全微分可能を解説
全微分可能の定義
二つの点
における二変数関数 $f$ の差分
$$
\tag{1.1}
$$
と
変数 $\alpha$ と $\beta$
を用いて、
$\epsilon$ を
$$
\tag{1.2}
$$
と定義する。
このとき、
二点間の距離
を十分に小さくした極限において、
$$
\tag{1.3}
$$
を成り立たせる
$\alpha$ と $\beta$ が存在するならば、
$f$ を
全微分可能であるという。
$(1.3)$
が成り立つとすると、
十分に $\Delta r$ が小さいときには、近似的に
であるので、
これと
$(1.2)$ より、
が成り立つ。よって、
全微分可能な関数は、
二点間の距離 ($\Delta r$) が $0$ に近づくと、
関数値の差分が
$ \Delta x$ と $ \Delta y$
の一次関数に近づく関数である。
偏微分が連続 ⇒ 全微分可能
二変数関数 $f(x,y)$ が偏微分可能であり、
その偏微分が
連続関数であるならば、
$f(x,y)$ は
全微分可能であり、
$$
\tag{2.1}
$$
とすると、
$$
\tag{2.2}
$$
が成り立つ。
ここで、
$
\Delta r = \sqrt{ \small (\Delta x)^2 + (\Delta y)^2}
$
である。
これは、
$(1.2)$ の $\alpha$ と $\beta$ が
と具体的に表されることを意味する。
証明
はじめに
$$
\tag{2.3}
$$
と表し、
の部分に着目する。
$f(x,y)$ が $x$ について偏微分可能であることから、
平均値の定理により、
を満たす $\theta_{x} $ $(0 \lt \theta_{x} \lt 1)$ が存在する。
これより、
と表せる。
ここで、
$\epsilon_{x}$ を
と定義すると、
$$
\tag{2.4}
$$
と表せる。
ここで
$f_{x} $ が連続関数であることから、
が成り立つので、
$\epsilon_{x}$ には
という性質がある。
この性質は、
$\epsilon$ 論法によって次のように表される。
すなわち、
任意の正の数 $\epsilon' $ に対して
$$
\tag{2.5}
$$
を満たす正の数 $\delta_{x}, \delta_{y}$ が存在する。
ここで、$\Delta r $ と $\delta$ を
$$
\tag{2.6}
$$
と定義すると、
$
| \Delta x | \leq \Delta r
$
かつ
$
| \Delta y | \leq \Delta r
$
であるので、
が成り立つ。
これと $(2.5)$ から
を満たす正の数 $\delta$ が存在する。
したがって、
$$
\tag{2.7}
$$
が成り立つ。
次に $(2.3)$ の
の部分に着目する。
$f(x,y)$ が $y$ について偏微分可能であることから、
平均値の定理により、
を満たす $\theta_{y} $ $(0 \lt \theta_{y} \lt 1)$ が存在する。
これより、
と表せる。
ここで、
$\epsilon_{y}$ を
と定義すると、
$$
\tag{2.8}
$$
と表せる。
ここで
$f_{y} $ が連続関数であることから、
が成り立つので、
$\epsilon_{y}$ は、
という性質を持つ。
この性質は、
$\epsilon$ 論法によって次のように表される。
すなわち、
任意の正の数 $\epsilon'$ に対して
を満たす正の数 $\delta_{y}$ が存在する。
これと
$(2.6)$
から、
を満たす正の数 $\delta$ が存在することになる。
ゆえに、
$$
\tag{2.9}
$$
が成り立つ。
以上の
$(2.3)$
$(2.4)$
$(2.8)$ から、
$$
\tag{2.10}
$$
と表することができ、
$\epsilon_{x}$
と
$\epsilon_{y}$
にはそれぞれ
$(2.7)$
と
$(2.9)$
が成り立つ。
と表すと、
$(2.10)$
は
$$
\tag{2.11}
$$
と表される。
$\epsilon$
には
$(2.6)$
と
三角不等式によって
が成り立ち、
$(2.7)$
と
$(2.9)$
から、
であるので、
$$
\tag{2.12}
$$
が成り立つ。
以上の $(2.11)$ と $(2.12)$ は、
$f(x, y)$ が全微分可能であり、
$(1.2)$ の $\alpha$ と $\beta$ が
と表されることを意味している。
全微分可能 ⇒ 連続
関数
$f(x,y)$
が
$(a,b)$
で全微分可能ならば、 $f$ は $(a,b)$ で
連続である。
証明
$f(x,y)$ が
全微分可能であるので、
としたときに、
を満たす
$\alpha$ と $\beta$ が存在する (
$(5.1)$ を参考)。
これより、
が成り立つ。
ここで
積の極限の性質を用いた。
これより、
が成り立つので、$f(x,y)$ は $(a,b)$ で連続な関数である。
接平面との関係
$(2.1)$ と $(2.2)$ から
関数 $f(x,y)$ は
偏微分が連続な場合、全微分可能であり、
$$
\tag{4.1}
$$
としたときに、
$$
\tag{4.2}
$$
が成り立つ。さて、
と変数を書き直すと、
$(4.1)$
は
と表される。
加えて
と置くと、
と表される。この式は $\epsilon$ を除いて、
点
$(a,b)$
で接する $f(x,y)$ の
接平面を表す式に他ならない。
従って、直感的には全微分可能な関数とは、
ある点の近傍の関数の値を接平面で近似できる関数のことである。
全微分の式
$(2.1)$ $(2.2)$ において、
であるので、
が成り立つ。したがって、$(2.2)$ を
$$
\tag{5.1}
$$
と表してもよい。
これは
$\Delta x$
と
$\Delta y$
が十分に小さい場合、
$\epsilon$ が
$\Delta x$
や
$\Delta y$
と比較して小さい値になることを表している。
例えば、
がそれに当てはまる。
このような場合などに、
$(2.1)$ の $\epsilon$ を無視して
($0$ と近似して)、
と表すことにし、
$$
\tag{5.2}
$$
と置くと
と表される。
これが物理学などでよく現れる全微分の式である。
具体例:
関数 $f$ を $t$ と $x$ の関数とする。
加えて $x$ が $t$ の関数であるとする。すなわち、
と表されるとする。
全微分の式は、
である。
両辺を $\mathrm{d}t$ で割ると、
$$
\tag{6.1}
$$
となる。これは
$t$ から $t+\mathrm{d}t$
に変化させたときの関数 $f$ の変化の割合を表す式である。
簡単な例を計算してみよう。
$$
\tag{6.2}
$$
とする。
第二式は
$x(t)$ が $tx$ 座標系上で
の上しか移動できないという拘束条件を表している。
その拘束のもとで、
$t$ から $t+\mathrm{d}t$ に変化させた場合の $f$ の変化率
$\frac{\mathrm{d} f}{\mathrm{d}t}$ を求めよう。
$(6.1)$
$(6.2)$ より、
である。
$\frac{\mathrm{d} x}{\mathrm{d}t} $ の部分は、
であるが、この式に対して
$\mathrm{d} t$ を $0$ に近づけることは、
$\sin kt$ の微分を求めることと同等であるから、
である。以上から、
と計算される。