関数の和の極限・積の極限・商の極限

関数の極限とは
  関数の極限を表す記号
関数の極限
とは、次の命題が成り立つことを表している。
  すなわち、 任意の正の数 $\epsilon$ に対して、 ある正の数 $\delta$ が存在し、
$$ \tag{1} $$ を満たす全ての $x$ に対して
$$ \tag{2} $$ が成り立つ (下図)。
関数の極限の図
$\epsilon$ は任意の正の数であるので、 $(1)$ の幅は幾らでも小さく考えてもよい。 そういう意味で関数の極限は次のように解釈できる。 すなわち、関数 $f(x)$ は、 $x$ を $a$ に近づけてゆけば $\alpha$ を中心とするどんな小さな幅の中にも収まる。
  $(1)$ と $(2)$を書き直すと、それぞれ
であるので、 極限の定義を論理記号を用いて、
と表すことができる。 ここで $\forall$ は「任意の」を表し、$\exists$ は「存在する」を表す。
  この性質を満たす $\alpha$ を関数 $f(x)$ の $x \rightarrow a$ における 極限(値)という。
和の極限
  関数の和の極限は、それぞれの極限値の和に等しい。 すなわち、
和の極限
が成り立つ。
証明
 
であるとする。 極限の定義より、 これは任意の正の数 $\epsilon_{f}$ に対して
$$ \tag{2.1} $$ であるならば、
$$ \tag{2.2} $$ が成り立つ正の数 $\delta_{f}$ が存在する。 また、 任意の正の数 $\epsilon_{g}$ に対して、
$$ \tag{2.3} $$ であるならば、
$$ \tag{2.4} $$ が成り立つある正の数 $\delta_{g}$ が存在する。
  ここで
と $\delta$ を定義すると、
$$ \tag{2.5} $$ であるならば、 $(2.1)$ と $(2.3)$ が成り立つので、 $(2.2)$ と $(2.4)$ と 三角不等式により、
が成り立つ。ここで、
と $\epsilon$ を定義すると、 $\epsilon_{f}$ と $\epsilon_{g}$ は任意の正の数であるので、 $\epsilon$ もまた任意の正の数である。 ゆえに、 任意の正の数 $\epsilon$ に対して、 $(2.5)$ であるならば、
が成り立つ正の数 $\delta$ が存在する。 したがって
である。

積の極限
  関数の積の極限は、それぞれの極限値の積に等しい。 すなわち、
積の極限
が成り立つ。
証明
 
であるとする。 極限の定義より 任意の正の $\epsilon_{f}$ に対して、
$$ \tag{3.1} $$ であるならば、
$$ \tag{3.2} $$ が成り立つ 正の数 $\delta_{f}$ が存在する。 $(3.2)$ は
と表されるので、 $|f(x)|$ は $|\alpha + \epsilon_{f}|$ よりも小さいか、 $|\alpha - \epsilon_{f}|$ よりも小さいかのどちらかである。 したがって、これらのうちの大きい方を $M$ と定義すると、 すなわち、
とすると、
$$ \tag{3.3} $$ が成り立つ。
  一方、
であるとすると、 極限の定義より 任意の正の $\epsilon_{g}$ に対して、
$$ \tag{3.4} $$ であるならば、
$$ \tag{3.5} $$ が成り立つ正の数 $\delta_{g}$ が存在する。
  ここで、 $\delta_{f}$ と $\delta_{g}$ の小さいほうを $\delta$ とすると、
と $\delta$ を定義すると、
$$ \tag{3.6} $$ であるならば、 $(3.1)$ と $(3.4)$ が成り立つので、 $(3.2)$ $(3.3)$ $(3.5)$ と三角不等式により、
$$ \tag{3.7} $$ が成り立つ。 ここで、
と置くと、 $\epsilon_{f}$ と $\epsilon_{g}$ は任意の正の数であるので、 $\epsilon$ もまた任意の正の数である。
  以上から、 任意の正の数 $\epsilon$ に対して、 $(3.6)$ であるならば、
が成り立つ正の数 $\delta$ が存在する。 よって、
である。

商の極限
  関数の商の極限は、それぞれの極限値の商に等しい。 すなわち、
商の極限
が成り立つ。 ただし、$\beta \neq 0$ とする。
証明
 
であるとする。 極限の定義より、 任意の正の $\epsilon_{g}$ に対して、
$$ \tag{4.1} $$ であるならば、
$$ \tag{4.2} $$ が成り立つ正の数 $\delta_{g}$ が存在する。 $(4.2)$ は
と表されるので、 $|g(x)|$ は $|\beta - \epsilon_{g}|$ よりも大きいか、 $|\beta + \epsilon_{g}|$ よりも大きいかのどちらかである。 したがって、 これらのうちの小さい方を $L$ と定義すると、 すなわち、
とすると、
$$ \tag{4.3} $$ が成り立つ。
  これらを踏まえて初めに
を証明する。 $(4.1)$ であるならば、 $(4.3)$ と $(4.2)$ を満たす $\delta_{g}$ が存在する。 これより、 $(4.1)$ であるならば、
$$ \tag{4.4} $$ が成り立つ $\delta_{g}$ が存在することになる。 ここで、
と定義すると、 $\epsilon_{g}$ が任意の正の数であるので、 $\epsilon$ もまた任意の正の数である。 したがって、 任意の正の数 $\epsilon$ に対して、 $(4.1)$ であるならば、
が成り立つ正の数 $\delta_{g}$ が存在することになる。 よって、
$$ \tag{4.5} $$ である。
  続いて
を証明する。 $(4.5)$ において
$$ \tag{4.6} $$ と表すと、
である。 ここで
が成り立つとすると、 関数の積の極限の性質より、
である。したがって、
である。

定数倍の極限
  関数の定数倍の極限は、極限値の定数倍に等しい。 すなわち、
定数倍の極限
が成り立つ。
証明
であるとする。 極限の定義より、 これは 任意の正の数 $\epsilon$ に対して、
$$ \tag{5.1} $$ であるならば
が成り立つ正の数 $\delta$ が存在することを表している。 これより、 $(5.1)$ ならば
が成り立つ。
と置くと、 $\epsilon$ が任意の正の数であるので、 $\epsilon_{C}$ もまた任意の正の数である。
  ゆえに、 任意の正の数 $\epsilon_{C} $ に対して、 $(5.1)$ であるならば、
が成り立つ正の数 $\delta$ が存在することになる。 したがって、
である。