シルベスターの終結式と判別式

 
シルベスター行列と終結式
  $n$ 次多項式 $f(x)$ と $g(x)$ が $m$ 個の共通のパラメータ $t_{1}, t_{2}, \cdots, t_{k}$ を持ち、
を満たすとする。 このとき、パラメータ間の関係を表す
終結式 (resultant) という。
  終結式には幾つかの種類があり、 その中の一つがシルベスターの終結式 (Sylvester's resultant) である。 以下に解説を著す。
解説
  $f(x)$ が $n$ 次多項式とすると、 $n+1$ 個のパラメータによって
と表せる。 $g(x)$ が $m$ 次多項式であるので、 $m+1$ 個のパラメータによって
と表せる。 これらが
を満たす場合、パラメータ間の関係式
を与える方法を議論する。
  上の式を求めるには、$n$ 次方程式 $f(x) = 0$ か $m$ 次方程式 $g(x) = 0$ の片方を解き、 その結果を他方に代入すればよい。しかし、一般的には方程式 $f(x) = 0$ も $g(x) = 0$ も解くことはできない。 そこで次のような方法をとる。

  $f(x) = 0$ であるので、
が成り立つ。 $g(x) = 0$ であるので、
が成り立つ。 すなわち
$$ \tag{1} $$ が成り立つ。 これらは $m+n$ 個の連立方程式を成す。 そこで、$m+n$ 次のベクトル $\mathbf{x}$ を
と定義し、 $(n+m) \times (n+m)$ 行列 $A$ を
シルベスター行列
とすると、$(1)$ は
シルベスター行列
とまとめられる。$A$ をシルベスター行列 (Sylvester matrix) という。 $n=3$ かつ $m=2$ の場合を具体的に表すと、
シルベスター行列
である。
  $\mathbf{x}$ の最後の成分が $1$ であることから分かるように、 $\mathbf{x}\neq 0$ であるので、 $A \mathbf{x} = 0$ は自明な解 $(\mathbf{x}=0)$ ではない解を持つ。 自明な解以外の解を持つことと係数行列の行列式が $0$ になることが同値であるという線形代数の性質から、 $A$ の行列式は $0$ であることが分かる。 したがって、
シルベスター行列
が成り立つ。 この式はパラメータ
シルベスター行列
の間の関係を表す式である。 これをシルベスターの終結式 (Sylvester resultant) と呼ぶ。
具体例 : (二次方程式の判別式)
  シルベスターの終結式を通じて 二次方程式が重解を持つための条件が
であることを示す。
証明
  $f(x)$ が重解を持つための必要十分条件は、
が成り立つことである (補足を参考)。 $f(x)$ が二次式
である場合には、
である。 第2式に $x$ を掛けて
とすると、 これらの三つの式
は、行列とベクトルを用いて、
とまとめられる。 ここで行列 $A$ とベクトル $\mathbf{x}$ を
と定義すると、
$$ \tag{1} $$ と表せる。 $\mathbf{x}$ の第三成分が $1$ であることから、 $\mathbf{x}\neq 0$ である。 したがって、 連立方程式 $(1)$ は自明な解ではない解 ($\mathbf{x} \neq 0$ を満たす解) を持つ。 ゆえに $A$ の行列式はゼロである。 すなわち
が成り立つ。 これはシルベスターの終結式の一例であり、 $A$ はシルベスター行列である。 これより
を得る。 左辺は $f(x)$ の判別式である。 よって、 二次方程式が重解も持つための必要十分条件が "判別式 = 0" と表されることが、 シルベスターの終結式を通じて示された。
補足: (重解を持つための必要十分条件)
    $n$ 次方程式
が $x=\alpha$ で重解を持つための必要十分条件は、
である。
証明
「$x=\alpha$ が重解」 $\Longrightarrow$ 「$f(\alpha) = 0, \hspace{2mm} f'(\alpha) = 0$」
  $f(x)$ が $x=\alpha$ において重解を持つと仮定すると、 因数定理から
と表せる。ここで $g(x)$ は $n-2$ 次多項式である。 両辺を微分すると
であることから、
が成立する。
「$x=\alpha$ が重解」 $\Longleftarrow$ 「$f(\alpha) = 0, \hspace{2mm} f'(\alpha) = 0$」
  $f(\alpha)=0$ であるので、 因数定理により、
$$ \tag{1} $$ と表せる。ここで $h(x)$ は $n-1$ 次多項式である。 両辺を微分すると、
であるが、 $f'(\alpha)=0$ より、
が成り立つ。 すると、 再び因数定理におり、 $h(x)$ は、
と表せる。ここで $k(x)$ は $n-2$ 次多項式である。 これと $(1)$ により、$f(x)$ は
と表せるので、$x=\alpha$ で重解を持つ。