剰余定理・因数定理・組立除法
多項式の商と余り
$f(x)$ を $n$ 次多項式
とする。
このとき、任意の数 $c$ に対して
を満たす $n-1$ 次多項式 $g(x)$ と数 $r$ が存在する。
$g(x)$ のことを、$f(x)$ を $x-c$ で割ったときの
商といい、
$r$ をその
余りという。
証明
$n$ 次多項式
$$
\tag{1.1}
$$
の係数 $ a_{k} $ $(k=0,1,2,\cdots, n)$ によって、
係数 $ b_{k} $ $(k=0,1,2,\cdots, n-1)$ と数 $r$ を
$$
\tag{1.2}
$$
と定義する。
$ b_{k} $ は $k=n-1$ の場合から順に
$ a_{k} $
によって一意に定義されたことになる。
例えば、
というように $a_{k}$ によって定義されている。
その $ b_{k} $ を用いて、$n-1$ 次多項式 $g(x)$ を
と定義すると、
$(1.1)$ と
$(1.2)$ から
が成り立つ。
したがって、任意の $n$ 次多項式 $f(x)$ には
任意の数 $c$ に対して
を満たす $n-1$ 次多項式 $g(x)$ と数 $r$ が存在する。
係数 $b_{i} $ は
組立除法の係数に用いられる。
具体例: (商と余り)
多項式
は
と表せる。
したがって、$f(x)$ を $x-2$ で割ったときの
商は $x^2-4x+3$ であり、
余りは $4$ である。
組立除法
多項式に対する
組み立て除法 (synthetic division) とは、
$n$ 次多項式 $f(x)$ を $x-c$ で割ったときの商 $g(x)$ と余り $r$ を求める方法である。
すなわち、
を満たす $n-1$ 次方程式 $g(x)$ と定数 $r$ を導出する方法である。
解説
$n$ 次式 $f(x)$ が
$$
\tag{3.1}
$$
であるとする。
また、
$n$ 次多項式 $f(x)$ を $x-c$ で割った商 を $g(x)$、余りを $r$ とする。
すなわち、
$$
\tag{3.2}
$$
とする。
$g(x)$ は
$n-1$ 次式であるので、
$$
\tag{3.3}
$$
と置く
(
商と余りを参考)。
$(3.1)$
と
$(3.3)$
を
$(3.2)$
に代入すると
と表される。
この式が任意の $x$
に対して成り立つので、
両辺の係数は等しい。
すなわち、
$$
\tag{3.4}
$$
が成り立つ。
第 $1$ 式によって $b_{n-1}$ が求まる。
$b_{n-1}$ が求まったことにより、
第 $2$ 式
によって、$b_{n-2}$ が求まる。このように繰り返して行くと、
第 $n$ 式
によって、$b_{0}$ が求まる。
$b_{0}$ が求まったことによって、最後の第 $n+1$ 式
によって、余り $r$ が求まる。
$b_{i}$ が求まったので、
$(3.3)$
から
$g(x)$ が求められる。
このように商
$g(x)$
と余り
$r$
を求める方法を組立除法という。
組み立て除法の例題
多項式
を $x-2$ で割ったときの商と余りを
組立除法によって求めよ。
解説
$f(x)$
を $x-2$ で割ったときの商を $g(x)$ とし、余りを $r$ とする。すなわち、
とする。
$g(x)$ を
と置き、
右辺を展開すると、
である。
この関係が任意の $x$ について成立するので、
両辺の係数は等しい。すなわち、
が成立する。一番上の式から順に解くことにより、
が得られる。
これより、商 $g(x)$ と余り $r$ は
である。
補足: 組み立て除法の解の一意性
組立除法によって、商と余りは一意に求まる。
証明
組立除法で導いた係数の関係 $(3.4)$
は、
ベクトルと行列によって
と表すことが出来る。
この式は、
と置くと、
$$
\tag{5.1}
$$
と表される。
$A$ は下三角行列であるので、
行列式は対角成分の積に等しい。
したがって
である。
$A$ の行列式が $0$ ではないことから、
$A$ には
逆行列が存在するので、
と表せる。
したがって、$\mathbf{g}$
は $A$ と $\mathbf{f}$ によって一意に求まる。
$\mathbf{g}$ が一意に求まれば、
$b_{i}$
と $r$
が求まるので、
商 $g(x)$ と 余り $r$ が一意に求まる
($(3.3)$ を参考)。
すなわち、
組立除法によって、
商と余りが一意に求まる。
剰余定理
多項式 $f(x)$ を $(x-c)$ で割った余りは $f(c)$ である。
証明
$f(x)$ を $n$ 次多項式とする。
このとき、
任意の数 $c$ に対して
が成り立つ $n-1$ 次多項式 $g(x)$ と数 $r$ が存在する (
多項式と余りを参考)。
これより、
である。
すなわち、
$f(x)$ を $(x-c)$ で割ったときの余りは $f(c)$ である。
具体例: (剰余定理)
多項式
は
であるので、
剰余定理により、$f(x)$ を $(x-2)$ で割った余りは $4$ である。
実際、$f(x)$ は
と表せるので、
$(x-2)$ で割った余りが $4$ になる多項式である。
因数定理
多項式 $f(x)$ が $(x-c)$ で割り切れる (余りが $0$ になる) ための必要十分条件は、
$f(c)=0$ である。
証明
$f(x)$ を $n$ 次多項式とする。
このとき、
任意の数 $c$ に対して
$$
\tag{8.1}
$$
を満たす $n-1$ 次多項式 $g(x)$ と数 $r$ が存在する。
まず $f(c)=0$ と仮定すると、
$(8.1)$ から
が成り立つので、$r=0$ である。
したがって、$f(x)$ は $(x-c)$ で割り切れる。
逆に、$f(x)$ が $(x-c)$ で割り切れると仮定する。
すなわち、
と表せると仮定する。
すると、ただちに
である。
以上から、
$f(x)$ が $(x-c)$ で割り切れるための必要十分条件は
$f(c)=0$ である。
具体例: (因数定理)
多項式
は
であるので、
因数定理により、
$f(x)$ を $x-2$ で割り切れる (余りが $0$ ) 多項式である。
実際 $f(x)$ は、
と表せるので、余りは $0$ である。
多項式の因数分解 : (因数定理の応用)
任意の $n$ 次多項式は、
複素数 $\lambda_{i}$ $(i=0,1,\cdots,n)$ によって
と表せる ($C$ は定数)。
証明
任意の $n$ 次方程式には必ず複素数の範囲に解が存在する (
代数学の基本定理)。
その解を $\lambda_{1}$ とする。すなわち、
とする。これより
因数定理によって、
$f(x)$ を
$$
\tag{10.1}
$$
と表せる。
ここで $f_{1}(x)$ は $n-1$ 次多項式である。
代数学の基本定理によると、
$f_{1}(x)$ にも必ず複素数の範囲に解が存在するので、
その解を $\lambda_{2}$ とする。すなわち、
とする。
これより
因数定理によって、
$f_{1}(x)$ を
と表せる。
ここで $f_{2}(x)$ は $n-2$ 次多項式である。
これを $(10.1)$ に代入すると、
と表せる。
このような操作を繰り返すと、
という形になる。
ここで $f_{n-1}(x)$ は一次多項式である。
これを
と置くと、
と表される。
この形を以って
代数学の基本定理と呼ぶこともある。