スターリングの公式
自然数 $N$ が十分に大きい場合に、
$N$ の階乗の対数は
と近似できる。
この近似を
スターリングの公式 (Stirling's formula) という。
証明
次の積分
$$
\tag{1}
$$
に着目し、積分区間を幅が $\frac{1}{2}$ の区間に分けて
と表す。さらに右辺を奇数項と偶数項に分けてまとめると、
$$
\tag{2}
$$
と表せる。
ここで被積分関数
$\log x$ は単調増加関数 であるので、
区間 $(n, n+\frac{1}{2}]$ において、
が成り立つ。これより、
が成り立つ。
そこで、左辺と右辺の差によって、$\alpha^{(+)}_{n}$ を
と定義すると、
$\alpha^{(+)}_{n}$ は正の数である
(下図参考)。
同じように、
$\log x$ の単調増加関数であるので、
区間 $[n+\frac{1}{2}, n+1)$ において、
が成り立つ。
これより、
が成り立つ。
そこで、右辺と左辺の差によって、$\alpha^{(-)}_{n}$ を
と定義すると、$\alpha^{(-)}_{n}$ は正の数である (上図参考)。
$\alpha^{(+)}_{n}$ と $\alpha^{(-)}_{n}$ を用いると、
$(2)$ の 積分 $I$ を
と表せる。
この式をさらに
と書き直す。最後の等式では
対数関数の積の性質を用いた。
一方 $(1)$ より積分 $I$ の値が
であることから
が成り立つ。最後の等号で
$\delta_{N}$ を
と定義した。
対数関数の性質を用いて、さらに整理すると、
となり、
これより
$$
\tag{3}
$$
を得る。
この結果を
ウォリスの公式
に代入すると、左辺が
と表されることから
$$
\tag{4}
$$
が成立する。
下記補足で示すように $N \rightarrow \infty$ の極限で $\delta_{N}$ は収束するので、
極限を $\delta$ と定義すると、すなわち、
とすると、$(4)$ から
を得る。
この結果と $(3)$ から、十分に大きな $N$ に対して
という近似式が得られる。
この式から
を得るが、$N$ が十分に大きいことから、$\log \sqrt{2\pi}$ と $-1$ の項を無視し、
加えて
と近似することによって、
を得る。この近似式をスターリングの公式という。
補足: 総和 $\delta_{N}$ の収束について
上で定義した総和
$$
\tag{1}
$$
が $N \rightarrow \infty$ の極限で収束することを証明する。
ここで各項は
$$
\tag{2}
$$
である。
$\alpha^{(+)}_{n} > 0$ かつ $\alpha^{(-)}_{n} > 0$ であるので
(上の証明を参考)、
$(1)$ は正の項 ($\alpha^{(+)}_{n}$) と負の項 ($-\alpha^{(-)}_{n}$) が交互に現れる総和である。
このような総和の $N \rightarrow \infty$ の極限を
交代級数と呼ぶ。
各項の大きさを比較するために、幾つかの点を定義する(下図参考)。
点 $A$、点 $B$、点 $D$ をそれぞれ座標値が
の点とする。
点 $D$ における $\log x$ の接線と $x= n-\frac{1}{2}$ との交点を $C$ とし、
$x= n+\frac{1}{2}$ との交点を $H$ とする。
点 $E$、点 $G$、点 $I$、点 $J$ をそれぞれ座標値が
の点とし、
点 $D$ と点 $J$ を通る直線と $x= n+\frac{1}{2}$ との交点を $F$ とする
(上図参考)。
$(2)$ より、
であるので、
$\alpha^{(-)}_{n-1}$ は曲線 $DB$ と線分 $BA$ と線分 $AD$ で囲まれる領域の面積である。
曲線 $DB$ は関数 $\log x$ 上の曲線であり、
$\log x$ が上に凸な関数
(傾きが次第に小さくなる関数)
であることから、
$\alpha^{(-)}_{n-1}$ は $\triangle DCA $ よりも大きい。
それを、
$$
\tag{3}
$$
と表す。
$\triangle DCA$ と $\triangle DHE$ は合同な三角形なので、互いの面積は等しい。
それを
$$
\tag{4}
$$
と表す。
$(2)$ より、
$\alpha^{(+)}_{n}$ は曲線 $DG$ と線分 $GE$ と線分 $ED$ とで囲まれる領域の面積である。
曲線 $DG$ は関数 $\log x$ 上の曲線であり、
$\log x$ が
上に凸な関数
(傾きが次第に小さくなる関数)
であることから、
$ \alpha^{(+)}_{n}$ の面積は
$\triangle DHE$ よりも小さい。
それを
$$
\tag{5}
$$
と表す。
また、$\log x$ が
上に凸な関数であることから
(または図から分かるように)、
$\alpha^{(+)}_{n}$は
$\triangle DFE$ の面積よりも大きい。
それを
$$
\tag{6}
$$
と表す。
$\triangle DFE$ と $\triangle JFI$ は合同な三角形なので、
互いの面積は等しい。
それを
$$
\tag{7}
$$
と表す。
$(2)$ より、
$\alpha^{(-)}_{n}$ は曲線 $JG$ と線分 $GI$ と線分 $IJ$ と で囲まれる領域の面積である。
曲線 $JG$ が関数 $\log x$ 上の曲線であり、
$\log x$ が
上に凸な関数であることから
(または図から分かるように)、
$\alpha^{(-)}_{n}$ の面積は $\triangle JFI$ の面積よりも小さい。
それを
$$
\tag{8}
$$
と表す。
以上の$(3)(4)(5)(6)(7)(8)$ により、
が成り立つ。これより、
$$
\tag{9}
$$
を得る。
また $(2)$ と
対数関数の性質により、
であるから、$n \rightarrow \infty$ の極限において
$$
\tag{10}
$$
となる。ここで
を用いた。
同様に
$$
\tag{11}
$$
となる。
以上の $(9)$ と $(10)$ と $(11)$ の性質を持つ
交代級数は一般に収束するので、$\delta_{N}$ は収束する。