シュワルツの不等式の証明と幾つかの例
シュワルツの不等式の証明 (実ベクトルの場合)
内積の定義された実ベクトル空間の任意のベクトル $\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ に対して、
が成り立つ。
これを
シュワルツの不等式 (Schwarz inequality) という。
この不等式は、
内積の性質 (定義)
から導かれる。
証明
$\mathbf{x} = 0$ または $\mathbf{y}=0$ の場合には、
シュワルツの不等式が成り立つのは明らかなので、
以下では、
$\mathbf{x} \neq 0$ かつ $\mathbf{y} \neq 0$ とする。
実ベクトル空間を任意のベクトル $\mathbf{x}$ と $\mathbf{y}$ に対して、
実数 $s$ の関数
を定義すると、
性質 $(3)$ より、
である。
一方 $F(s)$ は $(1)$ $(2)$ $(3)$ により、
と表せるので、
が成立する。
上の不等式の左辺は $s$ の $2$ 次式であるので、
不等式が成立するための必要十分条件は、
左辺の $2$ 次式に対する判別式
が
$
D \leq 0
$
を満たすことである。
すなわち、
を満たすことである。
これより
が成り立つが、
$(3)$ より
であるので、
が成り立つ。
ここで
ノルムを
と表した。
等号成立条件
シュワルツの不等式の等号が成立するための必要十分条件は、
$\mathbf{y}$ が $\mathbf{x}$ の実数倍であることである。すなわち、
である。
証明
はじめに
を示す。
を仮定すると、
ノルムの定義
により、
$$
\tag{A}
$$
である。
ここで、
と定義すると、
$D=0$ であるので、$D$ を判別式とする二次方程式
が重解を持つ。$D=0$ に注意して、
この方程式を書き換えると、
と表せるので、その重解は、
である。
ここで、
$$
\tag{B}
$$
と $s$ を定義し、
内積の性質 と $(\mathrm{B})$ を用いると、
であり、 $(\mathrm{A})$ を用いると、
である。
したがって、
内積の性質 $(3)$ により、
である。
すなわち、
$\mathbf{y}$ は $\mathbf{x}$ の実数倍である。
続いて
を示す。
であるとすると、
内積の性質 から
であり、
であるので、
が成り立つ。これより、
である。
具体例
二次元実ベクトル空間のベクトル
はシュワルツの不等式
を満たす。
例
内積と
ノルムを
標準内積により、
と定義すると、
であるので、
が成り立つ。
シュワルツの不等式の証明 (複素ベクトルの場合)
内積の定義された複素ベクトル空間の任意のベクトル $\mathbf{u}$ と $\mathbf{v}$ に対して、
が成り立つ。
これを
シュワルツの不等式 (Schwarz inequality) という。
この不等式は、
内積の性質 (定義)
から導かれる。
なお $(4)$ は $(1)(2)$ から導出できる。
証明
$\mathbf{u}$ と $\mathbf{v}$ を複素ベクトル空間の任意のベクトルとし、
$\alpha$ を任意の複素数とするとき、
内積の性質により、
である。
一方で、性質 $(3)$ により、$\|\mathbf{u} + \alpha \mathbf{v}\|^2 \geq 0$ であるので、
が成り立つ。
ここで、内積が複素数であることから、
$$
\tag{A}
$$
と置くと、
と表される。
この式が任意の複素数 $\alpha$ に対して成立するので、
$\alpha = \rho e^{-i\theta}$ ($\rho$ は任意の実数)の場合にも成立する。
よって、
が成立する。
左辺が実数 $\rho$ の $2$ 次式であるので、不等式が成立するための必要十分条件は、
左辺の $2$ 次式の判別式
が $0$ 以下になることである。すなわち、
が成り立つことである。
$( \mathrm{A})$ より、$r = |(\mathbf{u}, \mathbf{v} )|$ であるので、
この不等式は、
と表される。これより、
である。
等号成立条件
シュワルツの不等式の等号が成立するための必要十分条件は、
$\mathbf{v}$ が $\mathbf{u}$ の複素数倍であることである。すなわち、
である。
証明
$\mathbf{u} = 0$ または $\mathbf{v} = 0$ の場合は明らかなので、
$\mathbf{u} \neq 0$ かつ $\mathbf{v} \neq 0$ の場合を考える。
はじめに
を証明する。
を仮定し、
と置くと、
内積の性質により、
が成り立つが、
$\| \mathbf{u}\| \| \mathbf{v} \| $ は実数であるので、
とも表せる。
これらを踏まえて、
と置き、
$\|
\mathbf{v} - \beta e^{i\theta} \mathbf{u}
\| ^2$
を計算すると、
$\beta$ が実数であるために、
内積の性質から
である。
これより、
内積の性質 $(3)$ から
である。
$\beta e^{i\theta}$ は複素数であるので、
この式は
$\mathbf{v}$ が $\mathbf{u}$ の複素数倍の関係であることを表している。
$\beta e^{i\theta} = \xi$ と置くと、
である。
続いて、
を証明する。
複素数 $\xi$ に対して、
が成立すると仮定すると、
内積の性質 から
であり、
一方で、
であるので、
が成立する。
よって、
である。
具体例
二次元複素ベクトル空間のベクトル
はシュワルツの不等式
を満たす。
証明
内積と
ノルムを
標準内積により、
と定義すると、
であるので、
が成り立つ。