特殊相対論における速度の加法則(合成則)の証明
速度の加法則
静止している座標系 $S$ に対して速度 $\mathbf{u} = (u_{x}, u_{y}, u_{z})$ で運動している物体がある。
この物体を $S$ に対して $+X$ 方向に速さ $ v $ で運動している座標系 $S'$ から観測して得られる速度を
$\mathbf{u}' = (u_{x}', u_{y}', u_{z}')$ とすると、
これらの間には、
の関係がある。
ここで $c$ は光の速さであり、
である。
この関係を特殊相対論における
速度の加法則
または
速度の合成則
という。
以下に解説を記す。
ローレンツ変換
はじめに、特殊相対性理論の基本となるローレンツ変換の定義を紹介する。
特殊相対性理論では、
静止している座標系 $S$ にいる観測者が観測を行った結果、
時刻 $t$ のときに位置
にあるとされた物体は、
$S$ に対して $+X$ 方向に速さ $ v $ で運動している座標系 $S'$ にいる観測者からは、
時刻 $t'$ が
であり、
位置が
であると観測される。
ここで、$c$ は光の速さであり、
である。
これらを
ローレンツ変換といい、
各座標系における観測結果を結びつける変換式である。
この変換を用いると、
速度の加法則は以下のように導かれる。
加法則の証明
速度を定義するために、
物体の位置を二回観測する。
このとき、
ローレンツ変換 $(1)(2)$ を用いると、次のことが成り立つ。
座標系 $S$ にいる観測者が一回目の観測を行った結果、
時刻 $t_{1}$ のときに位置
にあるとされた物体は、
$S'$ にいる観測者からは、
時刻 $t'_{1}$ が
であり、
位置が
であると観測される。
同じように、
座標系 $S$ にいる観測者が二回目の観測を行った結果、
時刻 $t_{2}$ のときに位置
にあるとされた物体は、
$S'$ にいる観測者からは、
時刻 $t'_{2}$ が
であり、
位置が
であると観測される。
速度は位置の変化分を時間の変化分で割ったものであるから(より厳密な議論は
補足 1を参考)、
これらの観測結果を用いると、
それぞれの座標系で観測された物体の速度を計算できる。
すなわち、
座標系 $S$ で観測された速度 $\mathbf{u}$ を、
と表すことにすると、
であり、
座標系 $S'$ で観測された速度 $\mathbf{u}'$ を、
と表すことにすると、
である。
$S'$ で観測された速度は、
ローレンツ変換 $(3)(4)(5)(6)$ によって、
と表される。
以上の式は、
$S$ で観測される速度と $S'$ で観測される速度との間の関係式を表しており、
一方での速度から他方えの速度を計算することを可能にする。
これを特殊相対性理論における
速度の合成則または
速度の加法則という。
補足1: より正確に
より正確には、速度は位置の時間微分であり、
位置の時間変化を時刻の変化で割り、時間変換分を $0$ に近づけたときの極限である。
したがって、
$S$ で観測される速度は、
であり、
$S'$ で観測される速度は、
である。
ここで、 それぞれの速度は時刻 $t_{1}$ と 時刻 $t_{1}'$ における速度である。
ローレンツ変換を用いて $u_{x}'$ を書き直すと、
となり、
上と同じ速度の合成則を得る。
$y$ 成分と $z$ 成分についても同様に得られる。
( 上の式の二個目の等号において、
$t_{2}' \rightarrow t_{1}'$ の極限を $t_{2} \rightarrow t_{1}$ の極限に書き換えているが、
これについては、
以下の補足を参考にするとよい。)
このように特殊相対性理論では、
速度の定義(位置の時間微分)とローレンツ変換から速度の合成則が導かれる。
これは、
等速運動だけでなく加速度運動している物体の速度に対しても、
速度の合成則が成り立つことを意味する。
補足2: 極限について
$(7)$ において、
$t_{2}' \rightarrow t_{1}'$ の極限を $t_{2} \rightarrow t_{1}$ の極限に書き換えていた部分があるが、
これについて簡単に述べる。
ローレンツ変換
$(1)$
を時刻 $t_{2}'$ と $t_{1}'$ に適用すると、
が成り立つが分かる。
ここで、
$x(t)$ が $t$ の
連続関数であると仮定する
(この仮定は、
物体の運動が時間に対して連続的に遷移するという仮定であり、
力学では暗に仮定されるものである)。
この仮定を認めると上の式から、
$t_{2} \rightarrow t_{1}$ の極限では
となる。
よって、上の式から
$t_{2} \rightarrow t_{1}$ の極限では、
$t_{2}' \rightarrow t_{1}'$
となる。
ゆえに、
が成り立つ。