ランクを計算する例題と解説
以下の行列のランクを求めよ。
$(a)$
$(b)$
解説
以下に略解と要点、および解説付きの解答を記す。
なお、ランクの定義や一般的性質については、
「
ランクの定義・性質」を参考。
略解
行列のランクを求めるための見通しの良い方法は、
行列を
簡約化し、
主成分の数を数えることである (「
ランク=主成分の数」を参考)。
以下では、
その方針に従って解答する。
$(a)$
と置き、$A$ を以下のように簡約化する。
簡約化した結果、主成分が 2 つある行列になったので、 $A$ のランクは、2 である。
$(b)$
と置き、$B$ を以下のように簡約化する。
簡約化した結果、主成分が 3 つある行列になったので、 $B$ のランクは、3 である。
上の計算を行う際の要点と解説を以下に記す。
ランクを計算するときの要点
行列のランクを求めるための見通しの良い方法は、
行列を
簡約化し、
主成分の数を数えることである。
行列の主成分とは、各行を左から順に見たときに、
最初に現れる 0 でない成分のことである。
この例では、
四角で囲った部分が主成分であり、主成分が 2つある。
また、行列の簡約化とは、
行基本変形によって、
次の4つのルールを満たす行列に変換することである。
(1) 主成分が 1 である。
(2) 主成分を持つ列ベクトルは、主成分を除く全ての成分が 0 である。
(3) 主成分は、右側に行くほど下側にある。
(4) ゼロベクトルの行ベクトルは、 ゼロでない行ベクトルよりも下側にある。
これらのルールを確認しながら、
行基本変形を繰り返すと、
簡約化行列にたどり着くことができる。
基本変形の方針としては、
簡約化された行列が持つ次の性質に着目するのが良い。
すなわち、
簡約化された行列は、
になる (例えば、次のような形の行列)。
このような行列へと変形するためには、
簡約化を 1 列目から順に進めて行くと考えやすい。
1 列目から順に主成分が 1 段ずつ下に現れるように行基本変形を進める。
これを繰り返すことが、行列を簡約化するための一つの指針である。
以下は、この方針に従って行基本変形を進めた解説を付きの解答例である。
解説付きの解答
$(a)$
はじめに、
1 列の簡約化を行う。
1 列は値が 1 の主成分を 1 行に持つ。
よって、ルール (1) が初めから守られている。
一方で、ルール (2) が守られるためには、
1列に含まれる主成分以外の成分の値を 0 にしなくてはならない。
そこで、
1 行の 2 倍を 3 行から引くことにより、
と変形する。
次に 2 列の簡約化を行う。
既に 1 行に主成分が現れているので、
次に主成分が現れるとすれば、
2 行目である (性質 $(*)$ )。
変換後の行列の 2 行目を見てみると、
2 列目に主成分 -1 であるので、
値が 1 になるように変形を行うと、
ルール (1)が守られる。
そこで、
2 行に -1 を掛けることによって、
と変形する。
こうすると、 2 列の 2 行に値が 1 の主成分が現れるため、ルール(1) と (3) が守られる。
一方、ルール (2) が守られるためには、2 列のこれ以外の成分が 0 になるように変形しなくてはならない。
そこで、
2 行の 2 倍を 1 行から引き、その後、
2 行の -1 倍を 3 行から引く。
こうすると、ルール (2) が守られる。
変形後の行列の左から 2 列までのみを見ると、
(1)-(4) の全てのルールが守られている。
次に 3 列の簡約化を行う。左から 3 列までのみを見ると、既にルール (1)-(4) が守られているので、
3 列を変形する必要がないことが分かる。4 列についても同様である。
以上より、$A$ を簡約化した行列は、
である。主成分が 2 つある行列になるので、
$A$ のランクは、2 である。
$(b)$
はじめに、
1 列の簡約化を行う。
1 列は 1 行の値が 2 であるので、値が 2 の主成分を持つ。
そこで、ルール (1) を守るために、
1 行を 1/2 倍 し、
と変形する。
1 列がルール (2) を守るためには、
1 行め以外の成分の値を 0 にしなくてはならない。
そこで、
1 行の -3 倍を 2 行から引き、
その後、
1 行を 3 行から引く。すなわち、
と変形する。
次に 2 列の簡約化を行う。
左から 2 列までのみを見ると、既にルール (1)-(4) が守られていることが分かるので、
これ以上の変形する必要はない。
したがって、
3 列の簡約化に進む。
既に 1 行に主成分が現れているので、
次に主成分が現れるとすれば、
2 行目である(性質 $(*)$ )。
そこで 2 行目を見てみると、3 列目に主成分 3 があるので、
この値が 1 になるように変形を行い、ルール (1) が守られるようにする。
すなわち、
2 行に 1/3 を掛けることにより、
と変形する。
こうすると、 3 列の 2 行に値が 1 の主成分が現れるため、
ルール (1) と (3) が守られる。
一方で、ルール (2) を守るためには、
3 列の主成分以外の成分の値を 0 にしなくてはならない。
そこで、
2 行の -1 倍を 1 行から引き、
その後、
2 行の 5 倍を 3 行から引く。
すなわち、
と変形する。
次に 4 列の簡約化を行う。
既に 2 行に主成分が現れているので、
次に主成分が現れるとすれば、
3 行目である(性質 $(*)$ )。
そこで 3 行目を見てみると、4 列目に主成分 -5 があるので、
値が 1 になるように変形を行い、ルール (1)が守られるようにする。
すなわち、
3 行に -1/5 を掛けることにより、
と変形する。
一方で、ルール (2) を守るためには、
4 列の主成分以外の成分の値を 0 にしなくてはならない。
そこで、
3 行の 2 倍を 1 行から引き、
その後、
3 行を 2 行から引く。すなわち、
と変形する。
以上より、$B$ を簡約化した行列は、
である。主成分が 3 つある行列になるので、
$B$ のランクは、3 である。