自明な解  ⇔  正則行列

最終更新 2017年 2月3日
  正方行列 $A$ を係数行列とする連立一次方程式 $A\mathbf{x}=0$ の解が自明な解 $\mathbf{x}=0$ のみであることと、 $A$ が正則行列であることは互いに必要十分条件である。 すなわち、
「$A\mathbf{x}=0$ の解が自明な解 $\mathbf{x}=0$ のみ」 $\hspace{3mm} \Longleftrightarrow \hspace{3mm}$ 「$A$ が正則行列」
が成立する。

  解説

  はじめに
「$A\mathbf{x}=0$ の解が自明な解 $\mathbf{x}=0$ のみ」 $\hspace{3mm} \Longrightarrow \hspace{3mm}$ 「$A$ が正則行列」
を示す。
  $n$ 次正方行列 $A$ の列ベクトルを $\mathbf{a}_{i}$ $(i=1,2,\cdots,n)$ とすると、 $A$ は
と表わされる。 このとき、 $n$ 次ベクトル $\mathbf{x}$ を
と表すと、 $A\mathbf{x}=0 \hspace{3mm} \Longrightarrow \hspace{3mm} \mathbf{x}=0 $ とは、
と表される。 よって、 列ベクトル $\mathbf{a}_{1}, \mathbf{a}_{2}, \cdots, \mathbf{a}_{n}$ は互いに 線形独立である。
  ところで、 一般に列ベクトルが互いに線形独立な行列を行基本変形によって簡約化した行列は、
の形になることが知られている (証明は「列ベクトルが線形独立な行列の簡約化」を参考)。 すなわち、 簡約化された行列は、 基本ベクトル
が順に並ぶ行列になる。 従って、 このことと、 $A$ の列ベクトルが互いに線形独立であることから、 $A$ を簡約化した行列 $A^{r}$ は、 $n$ 個の基本ベクトルが順に並ぶ行列
になることが分かる。 ここで $I$ は、 単位行列 $I$ である。
  以上を踏まえて、 $A$ を係数行列とする $n$ 次の連立一次方程式
に着目する。 ここで、 $\mathbf{u}$ は方程式の解であり、 $\mathbf{b}$ はどんな $n$ 次ベクトルであっても構わない。 $A \mathbf{u} = \mathbf{b} $ は、 $n$ 個の式から成る連立一次方程式であるが、 そのそれぞれを
(a) 入れ替える
(b) 定数倍する
(c) 足し合わる
という操作を行ったとしたとしても解は変わらない。 また、 これらの操作は行うことは、 係数行列 $A$ を行基本変形させることに相当する。 すなわち、 $A \mathbf{u} = \mathbf{b} $ に (a)-(c) の操作の実行したものは、 その操作に対応する行基本変形を $A$ に対して行って得られる行列 $A'$ によって、
と表される。 ここで、 $\mathbf{b}'$ は $A$ から $A'$ が得られるときに実行した行基本変形を $\mathbf{b}$ に対して行って得られるベクトルである。 ところで、 一般に簡約化された行列は、もとの行列を行基本変形して得られる行列である。 よって、 $A \mathbf{u} = \mathbf{b} $ に対して (a)-(c) の操作を $A$ が簡約化されるように組み合わせて行うと、 $A^{r}$ を係数行列とする連立一次方程式
が得られる。 ここで、 $\mathbf{b}^r$ は $A$ から $A^r$ が得られるときに実行した行基本変形を $\mathbf{b}$ に対して行って得られるベクトルである。 これと $A^{r} = I$ から
を得る。 すなわち、 連立一次方程式 $A \mathbf{u} = \mathbf{b}$ の解は、 $\mathbf{b}^{r}$ である。
  その解 $\mathbf{b}^{r}$ は、 $\mathbf{b}$ を行基本変形して得られるベクトルであるので、 任意の $\mathbf{b}$ に対して、 唯一つだけ存在するベクトルである。 したがって、 連立一次方程式 $A \mathbf{u} = \mathbf{b}$ は、 唯一つの解を持つ。
  このことは $\mathbf{b} = \mathbf{e}_{i}$ の場合であっても成り立つので、 連立一次方程式
を満たす解 $\mathbf{u}_{i}$ は、 それぞれの $i$ に対して唯一つ存在する。
  このような $\mathbf{u}_{i}$ によって、 $n$ 次正方行列 $U$ を
と定義すると、 $U$ は
を満たす。 これより
が成り立つので (証明は逆行列は片側のみで定義可能を参考)、 $U$ は $A$ の逆行列である。 このように $A$ には逆行列が存在するので、 $A$ は正則行列である。
  次に
「$A\mathbf{x}=0$ の解はが自明な解 $\mathbf{x}=0$ のみである」 $\hspace{3mm} \Longleftarrow \hspace{3mm}$ 「$A$ が正則行列」
を示す。
  $A$ が正則行列であるので、 $A$ には
を満たす $A^{-1}$ が存在する。
  ここで
に対して、両辺に $A^{-1}$ を掛けると、 左辺は
であり、 右辺は
である。 ゆえに
である。
  ゆえに $A \mathbf{x} =0$ の解は、 自明な解 $\mathbf{x} = 0$ のみである。