Kernel と nullity とは?
本ページでは話を簡潔にするため、
実ベクトル空間上の線形写像について議論する。
Kernel (核) の定義
ベクトル空間 $U$
からベクトル空間 $V$
への
線形写像
において、
$f$
の
像が
$V$
の
零ベクトル
$
\mathbf{0}_{V}
$
になる $U$ の全体、
すなわち、
を満たす $\mathbf{u} \in U $ の全体を
$f$
の
Kernel (核)
といい、
$\mathrm{Ker}\hspace{0.5mm} f$
と表される。
記号で表すと、
である。
Kernel (核) の例1
$3\times 1$
の実行列
$\mathbf{R}^{3}$ の任意の行列を
と表す。このとき、
$\mathbf{R}^{3}$
から
$\mathbf{R}^{3}$
への
写像
$$
\tag{2.1}
$$
の
Kernel
を求めよ。
解答
Kernel の定義に従って、
$$
\tag{2.2}
$$
とする。ここで、
である。
$(2.1)$
より、
であるので、
$(2.2)$
は
と表される。
これより、
$u_{1}=0$
であるので、
$f$
の
Kernel は、
と表される行列の全体である。
記号で表すと、
$$
\tag{2.3}
$$
である。
$(2.3)$
が $f$ の Kernel であることは
$(2.1)$
から容易に確かめられる。
Kernel (核) の例2
$3\times 1$
と
$ 2 \times 1$
の実行列をそれぞれ
$\mathbf{R}^{3}$ と
$\mathbf{R}^{2}$
とする。
$\mathbf{R}^{3}$ の任意の元を
と表す。
このとき、
$\mathbf{R}^{3}$
から
$\mathbf{R}^{2}$
への
写像
$$
\tag{3.1}
$$
の
Kernel
を求めよ。
解答
Kernel の定義に従って、
$$
\tag{3.2}
$$
とする。ここで、
である。
であるので、
$(3.2)$
は
と表される。
これより、
であるので、
$(3.2)$
を満たすのは
(すなわち、$f$ の Kernel は)、
と表されるベクトルの全体である。
記号で表すと、
$$
\tag{3.3}
$$
である。
$(3.3)$
が
$f$ の
Kernel であることは
$(3.1)$
より
と確かめられる。
Kernel (核) の例3
区間
$[a,b]$
上の
$\mathrm{C}^{\infty}$ 級関数
を
導関数に変換する写像
(つまり微分する写像)
の
Kernel
を求めよ。
解答
Kernel の定義に従って
とする。
であるので、
と表される。
これより、
$f$ は定数である。
すなわち、
$D$ の
Kernel は定数関数である。
記号で表すと、
である。
Kernel (核) は部分空間をなす
ベクトル空間 $U$
からベクトル空間 $V$
への
線形写像
の
Kernel は、
$U$ の
部分空間を成す。
これを
核空間 (kernel space)
または
零空間 (null space)
という。
解答
$\mathbf{u}_{1}, \mathbf{u}_{2} \in \mathrm{Ker}\hspace{1mm} f$ とすると、
$$
\tag{5.1}
$$
である。
ここで、
$\mathbf{0}_{V}$
は $V$ の
零ベクトルである。
このとき、
が成り立つ。
一つ目の等号では
$f$ が
線形写像であること、
二つ目の等号では $(5.1)$、
三つ目の等号では
零ベクトルの性質を用いた。
これより、
$$
\tag{5.2}
$$
である。
同様に、
任意の $C \in \mathbf{R}$ に対して、
が成り立つ。
ここで、
一つ目の等号では
$f$ が
線形写像であること、
二つ目の等号では $(5.1)$、
三つ目の等号では
零ベクトルの基本定理を用いた。
これより、
$$
\tag{5.3}
$$
である。
以上の $(5.2)$
と
$(5.3)$
から、
$ \mathrm{Ker}\hspace{1mm} f$ は
部分空間を成す。
nullity (退化次数)
線形写像 $f$ の
核空間の
次元を
$f$ の
nullity (退化次数)といい、
と表す。
nullity (退化次数) の 例1
$3\times 1$
の実行列
$\mathbf{R}^{3}$ の任意の行列を
と表す。このとき、
$\mathbf{R}^{3}$
から
$\mathbf{R}^{3}$
への
写像
の
nullity (退化次数)
を求めよ。
解答
上で示したように、
$f$ の Kernel は、
である。
ここで、
と置くと、
$\{\mathbf{e}_{2}, \mathbf{e}_{3}\}$
は
線形独立であり、
右辺を
と表されることからわかるように、
$\mathrm{Ker} \hspace{1mm} f $
の次元は $2$ である。
よって、
$f$ の nullity (退化次数) は
である。
nullity (退化次数) の例2
$3\times 1$
と
$ 2 \times 1$
の実行列をそれぞれ
$\mathbf{R}^{3}$ と
$\mathbf{R}^{2}$
とする。
また、
$\mathbf{R}^{3}$ の任意の元を
このとき、
$\mathbf{R}^{3}$
から
$\mathbf{R}^{2}$
への
写像
の
nullity (退化次数)
を求めよ。
解答
上で示したように、
$f$ の Kernel は、
である。
右辺は明らかに
を
基底とする
$1$ 次元ベクトル空間を成すので、
$\mathrm{Ker} \hspace{1mm} f $
の次元は $1$ である。
よって、
$f$ の nullity (退化次数) は
である。
次元定理
ベクトル空間 $U$
からベクトル空間 $V$
への
線形写像
に対して、
$f$ の
ランクと
nullity
(退化次数) の和は、
$U$ の
次元に等しい。
すなわち、
が成り立つ。
証明
$\dim U = d$
とし、
以下の3つの場合分けを行う。
(1) の場合
はじめに
$$
\tag{9.1}
$$
とする。
線形写像のランクの定義より、
これは
$f$ による $U$ の
像
$\mathrm{Im} \hspace{1mm} f$
の
次元が
$r$ であることを意味する。
そこで、
$\mathrm{Im} \hspace{1mm} f$
の
基底を
とする。
これらは $f$ の像であるから、
$$
\tag{9.2}
$$
を満たす
が存在する。その一方、
$$
\tag{9.3}
$$
とすると、
nullity の定義より、
$\mathrm{Ker}\hspace{0.5mm}f$
の
次元が $n$ であるので、
$n$
個の
基底
$$
\tag{9.4}
$$
が存在する。
このとき、
$U$ と $V$ の
零ベクトルをそれぞれ
$\mathbf{0}_{U}$
と
$\mathbf{0}_{V}$
とし、
$$
\tag{9.5}
$$
とすると、
$$
\tag{9.6}
$$
である。
最後の等号では
線形写像の零ベクトルに対する性質を用いた。
また、
であるので、
が成り立つ。
これと
$f$ の線形性、
$(9.2)$
および
零ベクトルの性質から、
$$
\tag{9.7}
$$
である。
$(9.6)$
と
$(9.7)$
から
$$
\tag{9.8}
$$
が成り立つ。
$ \{ \mathbf{e}_{i} \} $
は
基底であるので
線形独立である。
ゆえに、
$(9.8)$
から
を得る。これより、
$(9.5)$
は
と表される。$\{{\mathbf{k}}_{i} \}$
は
線形独立であるので、
を得る。以上から
が成り立つことが分かる。
よって、
$$
\tag{9.9}
$$
である。
任意の
$\mathbf{u} \in U$
に対し、
$f(\mathbf{u}) \in \mathrm{Im}\hspace{0.5mm} f$
であり、
$ \{ \mathbf{e}_{i} \} $
は
$\mathrm{Im}\hspace{0.5mm} f$
の
基底であるので、
と表せる。二つ目の等号では
$(9.2)$、
三つ目の等号では
$f$
の線形性を用いた。これより、
であるので、
である。
したがって、
基底
$(9.4)$
によって、
と表せる。ここで
$\beta^{\mathbf{k}}_{i}$
は係数である。
これより、
である。
$(9.9)$
より、
上式は
$U$ の任意のベクトルが $r+k$ の線形独立なベクトルによって表せることを意味する。
よって、
$U$ の
次元は
$r+k$
である。
すなわち、
である。
二つ目の等号では
$(9.1)$
と
$(9.3)$
を用いた。
(2) の場合
ランクの定義より、
である。
$f$ の像は次元を持たない。
つまり、
$f$ の像には線形独立なベクトルが一つもない。
言い換えると、
$f$ の像は零ベクトルである。
全ての $U$ のベクトルが $\mathbf{0}_{V}$
に写像されるので、
$\mathrm{Ker}\hspace{0.5mm}f$ は $U$ の全体である
(
Kernelの定義を参考)。
すなわち、
である。
これと
nullity の定義から、
が成り立つ。
(3)の場合
はじめに
$$
\tag{9.10}
$$
とする。
線形写像のランクの定義より、
これは
$f$ による $U$ の
像
$\mathrm{Im} \hspace{1mm} f$
の次元が $d$ であることを意味する。
そこで、
$\mathrm{Im} \hspace{1mm} f$
の
基底を
とする。
これらは $f$ の像であるから、
$$
\tag{9.11}
$$
を満たす
が存在する。
このとき、
$U$ と $V$ の
零ベクトルをそれぞれ
$\mathbf{0}_{U}$
と
$\mathbf{0}_{V}$
とし、
$$
\tag{9.12}
$$
とすると、
$$
\tag{9.13}
$$
である。
最後の等号では
線形写像の零ベクトルに対する性質を用いた。
これと
$f$ の線形性と
$(9.11)$
から、
$$
\tag{9.14}
$$
である。
$(9.13)$
と
$(9.14)$
から
$$
\tag{9.15}
$$
が成り立つ。
$ \{ \mathbf{e}_{i} \} $
は
基底であるので
線形独立である。
ゆえに、
$(9.15)$
から
が成り立つことが分かる。
よって、
$$
\tag{9.16}
$$
である。
そこで、
零ベクトルではない任意の $\mathbf{u} \in U$
を
と表すと、
$(9.11)$
から
である。
これは、
$U$
のベクトルには、$f$ によって
零ベクトルにはなるものがないことを意味している。
よって、
$f$ の Kernel の次元は $0$ である。
すなわち、
である。
これと
nullity (退化次数) の定義から
が成り立つ。
台 (support) との関係
行列
$A$ を掛けたときにゼロベクトルになるベクトルの全体が
$A$
の
核 (kernel)
である。
一方、
$A$ を掛けたときにゼロベクトルにならないベクトルの全体が
$A$
の
台 (support)
である。
よって、$A$ の核は $A$ の台の補集合である。
すなわち、
\begin{eqnarray}
\mathrm{Ker}\hspace{0.5mm} A =
\overline{\mathrm{supp}(A)}
\end{eqnarray}
が成り立つ。