フーリエ級数・フーリエ展開とは?  

本ページでは、理工学全般でよく見かける フーリエ係数・ フーリエ級数・ フーリエ級数展開について、初学者でも分かるような丁寧な証明をつけて論じられています。

三角級数
  三角関数
三角級数
と定数から成る関数項級数
三角級数 (trigonometric series) という。 (ここで $\frac{a_{0}}{2} $ における $\frac{1}{2}$ は後の議論での便宜上つけられている。)
直交性
  定数 $1$ を含む三角関数列
は、互いに直交する。すなわち、
三角関数の直交性
が成り立つ。
証明
  $\cos$ は偶関数であるので、
$\sin ( \pm n \pi) = 0$ であるので、
積和の公式を用いると、 $m=n$ の場合、
同様に $m \neq n$ の場合、
$m=n$ の場合、
$m \neq n$ の場合、
$m = n$ の場合
$m\neq n$ の場合

フーリエ係数
  区間 $[-\pi, \hspace{0.5mm} \pi]$ で積分可能な関数 $f(x)$ と三角関数列
によって、定義される次の係数
フーリエ係数
をフーリエ係数という。
フーリエ級数
  フーリエ係数を各係数に持つ三角級数
フーリエ級数
をフーリエ級数という。
  以下に記されるように、ある条件の下ではフーリエ級数が $f(x)$ に等しくなる。
ベッセルの不等式
  区間 $[-\pi,\pi]$ で 積分可能な関数 $f(x)$ から作られたフーリエ級数
とするとき、
フーリエ級数におけるベッセルの不等式
が成り立つ。 これを (フーリエ級数における) ベッセルの不等式という。
証明
  適当な係数 $\xi_{k}, \hspace{1mm} \chi_{k}$ と $1$ 以上の任意の自然数 $n$ を用いて
$$ \tag{1} $$ を定義し、
$$ \tag{2} $$ を考える (不等号が成り立つのは(正の積分の性質を参考 )。 左辺を展開すると、
$$ \tag{3} $$ 右辺の2つ目の積分は、
である。ここで $a_{k}, b_{k}$ はフーリエ係数である。 $(3)$ の 3つ目の積分は、
である。 最後の等号では 三角関数の直交性を用いた。 以上を $(3)$ に代入すると、
$$ \tag{4} $$ が成り立つ。 よって、 $(2)$ より、
が成り立つので、
$$ \tag{5} $$ である。 これより $n$ について数列
$$ \tag{6} $$ は上に有界な単調増加数列であるので収束する (実数の連続性公理)。 すなわち、数列 $(5)$ は極限値を持ち、その極限値
は、 $(5)$ から
を満たす。


補足
  $(4)$ から分かるように、積分
が最小になるのは、適当においた係数 $\xi_{k}, \hspace{1mm} \chi_{k}$ が
を満たすときである。

フェイエールの定理
  フーリエ級数の部分和を
とする。また、$s_{n}$ の平均を
とする。このとき、 $f$ が区間 $[-\pi, \pi]$ で連続で周期 $2\pi$ の周期関数であるならば、 $n \rightarrow \infty$ の極限で
が成り立つ。 これをフェイエールの定理 (fejer theorem) という。
証明
  $s_{n}$ がフーリエ級数の部分和であるので、
である。 これらを $s_{n}$ に代入すると、 ディリクレ核 $D_{n-1}$ を用いて、
と表せる (証明は「ディリクレ核のフーリエ級数との関係」を参考)。 $y-x=t$ と置くと、
と表せる。 上記は区間の幅(大きさ)が $2\pi$ の積分である。 一方、$f$ が周期 $2\pi$ の関数であり、 ディリクレ核もまた周期 $2\pi$ の関数であるので、 被積分関数は周期 $2\pi$ の関数である。 したがって、 被積分関数の周期と積分区間の幅が等しい。 このような場合には、 積分範囲を平行移動させても積分の値が変わらないので、
と表せる。ここで、ディリクレ核の指数関数による表現から
と表せるが、 最後に現れた二つの総和が等比数列の和であることから、
と表せる。4個目の等号では三角関数の定義 (またはオイラーの公式)を用いた。これより、
であるので、$S_{n}$ を
と表せる。最後の等号では半角の公式を用いた。
  $f(x)=1$ の場合を考えると、
である一方、
であることから、
であり、
である。以上から、
$$ \tag{1} $$ が成り立つ。これより、
が成り立つので、
$$ \tag{2} $$ を得る。
  $f$ は閉区間 $[-\pi,\pi]$ で連続であるため、 この区間で一様連続である (「閉区間で連続 ⇒ 一様連続」を参考)。 なおかつ、$f$ は周期 $2 \pi$ の周期関数であるので、 隣の区間 $[\pi, 2\pi]$ でも一様連続であり、結果として 区間 $[-\pi, 2\pi]$ で一様連続である。 このように区間を広げてゆけば、 $f$ は任意の閉区間 $I$ 内で一様連続であることが分かる。 よって、任意の正の数 $\epsilon$ に対して、 $y,x \in I $ であり、なおかつ
を満たす全ての $y,x$ に対して
を成り立たせる正の数 $\delta$ が存在する。 この $\delta$ よりも小さい $\delta$ を選んだとしても同様の関係が成り立つので、 今後は $\delta$ が十分に小さい値であるとする。
  $y=x+t$ と置くと次のように書き直せる。すなわち、 任意の正の数 $\epsilon$ に対して、 $x+t,x \in I $ であり、
を満たす全ての $t$ に対して
$$ \tag{3} $$ を成り立たせる正の数 $\delta$ が存在する。
  $\delta$ を用いて 積分 $(2)$ を3つに分ける。
三角不等式より、
$$ \tag{4} $$ が成り立つ。
  $(4)$ の右辺の第一項の積分に注目すると
が成り立つ。ここで 一つ目の不等号では絶対値の積分の性質、 最後の不等号では三角不等式大小関係のある積分の性質 を用いた。 $f(x)$ は閉区間上での連続関数であるので、最大値を持つ (「連続関数の最大値・最小値の定理」を参考)。 これを $M$ と表すと
が成り立つ。最後の行では $ \big( \sin \frac{nt}{2} \big)^2 \leq 1 $ を用いた。また、$\delta$ が十分に小さい値であるので、 $ t \in [-\pi, -\delta]$ において
が成り立つので (下図参考)、
以下の関係が成り立つ。
$$ \tag{5} $$ が成り立つ。
  続いて $(4)$ の右辺の第二項の積分に注目すると、 $(3)$ から
$$ \tag{6} $$ が成り立つ。この式の最後の積分について積分の基本的な性質から
であり、被積分関数が $0$ 以上の値であるので、 右辺の第二項と第三項は $0$ 以上である (「被積分関数が正の積分」を参考)。 すなわち、
であるので、
が成り立つ。 よって、$(6)$ と $(1)$ から
$$ \tag{7} $$ が成り立つ。
  続いて $(4)$ の右辺の第三項の積分に注目すると、 第一項について $(5)$ を与えたときと同様の議論により、
$$ \tag{8} $$ が成り立つ。 以上 $(4)(5)(7)(8)$ より、
が成り立つ。第二項について、 $n$ が十分に大きな場合には、
が成り立つので、そのような $n$ に対しては、
$$ \tag{9} $$ が成り立つ。 $\epsilon$ が任意の正の数であるから、$2\epsilon$ もまた任意の正の数である。 ゆえに、その任意の正の数について $(9)$ を成り立たせる自然数 $n$ が存在する。 よって、
である。

パーセバルの等式 (完備性)
  周期 $2\pi$ の連続関数 $f(x)$ によって定義されるフーリエ係数 $a_{0}, a_{k}, b_{k}$ $(k=1,2,\cdots)$ によって
$$ \tag{1} $$ を定義すると、
が成り立つ。ここから、
パーセバルの等式
が導かれる。 これをパーセバルの等式といい、三角関数列完備であるともいう。
証明
  $s_{i}(x)$ $(i=1,2,\cdots)$ の平均を
と定義すると、 $(1)$ より
であるが、
と置くと、
$$ \tag{2} $$ と表すことができる。 これを用いて、
$$ \tag{3} $$ を考察する。 $(2)$ がベッセル不等式導出の $(1)$ 式 と同じ表現であることから分かるように、 ベッセル不等式導出の $(4)$ 式の導出の議論をそのまま適用することによって、
$$ \tag{4} $$ を得る。続いて、
$$ \tag{5} $$ を考察する。 $(1)$ と $(2)$ を比較すれば分かるように、 $S_{n}(x)$ と $s_{n}(x)$ は係数のみが異なる。 したがって、
と置き換えて、 $(4)$ の議論をそのまま適用することによって、
$$ \tag{6} $$ を得る。 $(4)$ と $(6)$ により、
である。ゆえに
$$ \tag{7} $$ が成り立つ。 $(7)$ の左辺は フェイエールの定理から
$$ \tag{8} $$ である。 一方、積分の性質から $(7)$ の右辺は $0$ 以上である。すなわち、
$$ \tag{9} $$ である。以上 $(7)(8)(9)$ からはさみうちの定理により、
を得る。 これと $(6)$ からパーセバルの等式
を得る。

フーリエ級数の一様収束性
  関数 $f(x)$ が区間 $[-\pi, \pi]$ において$\mathrm{C}^{1}$ 級関数で、 周期 $2\pi$ の周期関数であるならば、 $f(x)$ のフーリエ級数
フーリエ級数
$$ \tag{1} $$ は一様収束する。
証明
  $(1)$ は $f(x)$ のフーリエ級数なので、 各係数は、
である。 $f(x)$ は $\mathrm{C}^{1}$ 級関数なので、 $f(x)$ は微分可能であり、$f'(x)$ は連続関数である。 $\cos nx$ と $\sin nx$ も微分可能で、$(\cos nx)'$ と $(\sin nx)'$ が連続な関数である。 よって、 上記の被積分関数
は、微分可能でその微分が連続な関数である (「積の微分」 「積の連続性」を参考)。 よって、部分積分によって、
と表せる。最後の等号では、 $f(x)$ が周期 $2 \pi$ の周期関数であるため、 $f(\pi) = f(-\pi)$ であることを用いた。 ここで $f'(x)$ のフーリエ級数を $ \tilde{a}_{n} $ と $\tilde{b}_{n}$ とする。 すなわち、
とする。これを用いると、 $a_{n}$ と $b_{n}$ は
と表される。右辺の絶対値には、
が成り立つ。これらはそれぞれ不等式
を式変形すれば得られる。 以上を用いると、 $(1)$ の各項に対して、
が成り立つことが分かる。これは、 数列
$$ \tag{2} $$ の各項がフーリエ級数 $(1)$ の各項の絶対値以上の値を持つことを示している。 そこで、 数列 $(2)$ から成る級数
$$ \tag{3} $$ を考えると、まず級数
は収束する (「バーゼル問題」を参考)。 また、$ \tilde{a}_{n}$ と $\tilde{b}_{n}$ が $f'(x)$ の フーリエ係数 であることからベッセルの不等式により、
もまた収束する (ベッセルの不等式の証明の $(6)$ 式付近で級数の収束性が証明されている)。 よって、数列 $(3)$ は収束する。
  以上まとめると、 フーリエ級数 $(1)$ には、 各項の絶対値以上の値を持つ数列 $(2)$ があり、 その数列から成る級数 $(3)$ は収束する。 ゆえに、フーリエ級数は一様収束する (「関数項級数 ≦ 収束する級数 ⇒ 一様収束」を参考)。

フーリエ級数展開
  関数 $f(x)$ が区間 $[−\pi,\pi]$ において $\mathrm{C}^{1}$ 級関数で、 周期 $2\pi$ の周期関数であるならば、 $f(x)$ のフーリエ級数は $f(x)$ に一様収束する。 その意味で
フーリエ級数展開
と表せる。ここで $a_{n}, b_{n}$ はフーリエ係数である。 これを $f(x)$ のフーリエ級数展開という。
証明
  $f(x)$ は周期 $2 \pi$ の連続関数であるから、 パーシバルの等式 (完備性)が成り立つ。 すなわち、
$$ \tag{1} $$ が成り立つ。
  フーリエ級数は一様収束するので、項別積分できる。 このことと、三角関数列の直交性により、
$$ \tag{2} $$ が成り立つ。これらとフーリエ係数の定義から、
$$ \tag{3} $$ が成り立つ。 $(3)$ から
が成り立つ。 また、パーシバルの等式 $(1)$ とフーリエ係数の定義から、
である。以上から、
が成り立つ。 これと積分の性質から
である。 $f(x)$ は、(一様収束する) $f(x)$ のフーリエ級数に等しい。 すなわち、 $f(x)$ はフーリエ級数展開可能である。

周期 2L の場合
  関数 $f(x)$ が区間 $[−L,L]$ において $\mathrm{C}^{1}$級関数で、 周期 $2L$ の周期関数であるならば、 $f(x)$ は
フーリエ級数展開可能である。 ここで $a_{n}, b_{n}$ はフーリエ係数
である。
証明
  はじめに
$$ \tag{1} $$ と置くと、$g(t)$ もまた $\mathrm{C}^{1}$級関数であり (証明略)、 $f(x)$ が周期 $2L$ の周期関数であるから、
が成り立つので、$g(t)$ は周期 $2\pi$ の関数である。 よって、$g(t)$ は
フーリエ級数展開可能であり、
である。ここで
と置くと、
と表され、
$$ \tag{2} $$ である。 $(1)$ より、
であるから、次の結論を得る。 すなわち、 関数 $f(x)$ が区間 $[−L,L]$ において $\mathrm{C}^{1}$ 級関数で、 周期 $2L$ の周期関数であるならば、 $f(x)$ は
フーリエ級数展開可能であり、 各係数は $(2)$ である。